コズミックホラーの古典が現代に蘇る! クトゥルフ神話漫画5選

マンガ

更新日:2018/11/26

 近年ゲームなどの影響によって、その知名度が高くなってきている「クトゥルフ神話」。元々は、今から90年近く前にH・P・ラヴクラフトという人物が提唱した「コズミックホラー(宇宙的恐怖)」という概念と、彼独自の神話が元になっています。当時はあまり売れなかったようですが、その知名度は徐々にあがり、冒頭で紹介したように日本では21世紀になってから知名度が高くなってきています。本稿ではそんなクトゥルフ神話をモチーフにした漫画を紹介しましょう。

■邪神や異形の存在が美少女や美少年に!

 日本でクトゥルフ神話の知名度があがったきっかけといえば、「クトゥルフ神話TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)」の実況動画配信が一役買っているのですが、それをより一般にひろめたものとして、アニメ化もされた『這いよれ!ニャル子さん』の役割は大きいといえるでしょう。

 おぞましいはずの邪神や怪物を美少女や美少年として描写し、さまざまなパロディを持ち込むことで、ホラーではなくギャグ風味を強くしたこちらの作品をさらに可愛らしく、なおかつ、ギャグや笑いを満載にしたものが『這いよれ!スーパーニャル子ちゃんタイム』(逢空万太:原作、星野蒼一朗:漫画/ほるぷ出版)。いかにも日本らしいアプローチといえるこちらの作品から、クトゥルフ神話に触れてみるのはいかがでしょう?

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■宇宙に満ちあふれた恐怖は漫画になっても変わらない…

 クトゥルフ神話の創始者ともいえるH・P・ラヴクラフト氏。彼の作品は生前ほとんど評価されなかったことからもわかるように、独特な表現が多く、それだけに翻訳されたものは読むのが大変という特徴があります。そんな彼の作品を、その独特の雰囲気までも取り入れて漫画として成立させた『魔犬 ラヴクラフト傑作集』(田辺 剛/KADOKAWA・エンターブレイン)。

 ラヴクラフト氏が構築した独自の世界観を、精密かつ重厚な絵柄で表現することに成功し、気がつくと忍び寄ってくる恐怖や、潜在意識に染みこんでくる宇宙的な恐怖を充分に感じさせてくれるこちらの作品は、王道中の王道であり、まさにクトゥルフ漫画の傑作といえるだろう。

■日本の伝統文化とクトゥルフ神話を融合させた希有な作品

 クトゥルフ神話に出てくる存在は、人間ではたちうちできない宇宙的な恐怖を具現化したものですが、それらに対抗するために言霊や古代文字、八百万の神々などといった日本古来の文化を使う、という斬新な発想を持つ作品が『ニライカナイ』(岡田芽武/講談社)。

 西洋で生まれたクトゥルフ神話にたいして、言霊や沖縄の方言などといった東洋の文化を武器にするという点で、難しい歴史物をイメージしてしまいがちですが、それらの要素を緻密かつ迫力ある絵柄によって描写することで繰り広げられる戦闘は、アクション漫画として高いクオリティを誇っています。クトゥルフ神話作品としては、かなり異色作ではありますが、ホラーよりもアクションが好きという方にオススメです。

■巨大ロボットや変身ヒーローが邪神の力を用いて戦う!

 日本が世界に誇れるエンターテインメントのひとつとして、巨大ロボットや変身ヒーローなどがあります。日本で子供向けとされている戦隊ヒーローが、アメリカに輸出され、ハリウッドで実写化されていることからもそのことは明らかです。そんな日本のお家芸とクトゥルフ神話が融合した作品が『ダイン・フリークス』(鋼屋ジン:原作、空十雲:作画/富士見書房)。

 クトゥルフ神話のエッセンスをこれでもかというほど詰め込む一方で、変身ヒーローや巨大ロボット、メカや美少女という日本らしいエッセンスが違和感なく溶け込んでいます。マニアックな面が多く、ある程度クトゥルフ神話の知識が必要ですが、クトゥルフ神話マニアならば、一度は読んでみて損はありません。

■クトゥルフ神話の入門にも最適な伝説的漫画

 今のようにクトゥルフ神話が一般的になる前、今から30年近く前に描かれた「邪神伝説」シリーズ(矢野健太郎/クリーク・アンド・リバー社)。こちらの作品は絶版となって久しく、長い間伝説のクトゥルフ漫画といわれていたのですが、近年、クトゥルフ神話の知名度があがったこともあり電子書籍として復刊しました。

 クトゥルフやハスター、ヨグ・ソトースといった、クトゥルフ神話のメジャーどころの邪神からマニアックな怪物まで、多くの存在や小道具が登場しますので、この作品を読むだけでも、クトゥルフ神話のアウトラインを掴むことができます。クトゥルフ神話に興味はあるけれども、原作はちょっと…と思う方は、まずはこちらから読んでみることをオススメします。

 クトゥルフ神話というのは、世界で一番新しい神話と呼ばれることがあります。そんな新しい神話であったとしても、原作を踏襲するだけでなく、わかりやすく表現したり、さらに自分たちの文化と融合させたり、時にはまったく逆のベクトルへと向けたりすることができたのは、フィクションの世界だからこそ成り立つ奇跡といえるでしょう。そんな奇跡を産み出したクトゥルフ神話の懐の深さは、これからも、世界中で、どんどんと新しいカタチの神話を生み出すに違いありません。

文=龍音堂