【毒親体験談】元・子どもたちの毒親育ちエピソードと“その後”を描いた実録漫画9選

マンガ

更新日:2022/5/31

毒親イメージ

 親は子を無条件で愛するもの。それが当たり前であると思われてきた。しかし世間では児童虐待のニュースが後を絶たない。最近では子どもに愛情を注ぐどころか、支配し、悪影響を及ぼす存在の「毒親」に注目が集まっている。

 渦中の子は親の毒に気づけず、自分を責めてしまう傾向があるようだ。毒親育ちの子は、大人になってからもその影響に苦しみ、自身がまた毒親のようになることも多いという。この負の連鎖を断ち切るには、どうすればいいのか。

 自分では客観視しづらい毒親との関係性。他の人の体験談を通してなら、自分が置かれた状況を冷静に振り返るきっかけになるかもしれない。

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 そこで本稿では「毒親」に関するコミックエッセイ作品を紹介する。毒親のタイプや育てられた子の特徴、毒親と過ごした日々のエピソードなどをまとめて見ていこう。

【毒母あるある】親の毒に気づけない子どもたち『それでも親子でいなきゃいけないの?』

 毒親の特徴とはどんなものか。子にとって「毒」であると指摘される親の行動範囲はさまざまで、暴力、過干渉、性的虐待、ネグレクトなど多岐にわたる。はたから見れば大事に育てられているようでも、子をひとりの人格と認めず、親の価値観を押し付け、過度な管理や支配下におく毒親もいる。

「毒親」という言葉がまだ浸透していなかった2012年、母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたデビュー作『母がしんどい』(KADOKAWA)が話題になった田房永子さん。彼女が上梓した『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)は、自分と同じように親子関係に苦しい思いを抱く人々の半生をエッセイ漫画化した作品である。

『それでも親子でいなきゃいけないの?』(田房永子/秋田書店)
『それでも親子でいなきゃいけないの?』(田房永子/秋田書店)

 本作には田房永子さん自身の“その後”の母子関係を描いたコミックエッセイの他、強烈な毒親体験談が多数収録されている。家族構成や家庭環境は人それぞれ違うものの、毒親に育てられた子は親が「毒」になっていることに気づかず、知らないうちに「親のための人生」を歩んでいることも多いようだ。

母は「かわいそうな人」、だから娘も「いい思い」をしちゃダメ?

 K子さん(26歳・医療系)は、心身の不調を相談するために受けたカウンセリングで「毒」となっていた母との関係を「見直したほうがいい」と言われる。しかしKさんは「問題なんかないんですけど」と突っぱねてしまう。

 夫からは無視をされ、戻った実家ではひとりで介護地獄を背負う母の姿を見てきたため、K子さんにとって母は「かわいそうな人」だったのである。

 K子さんの母は、彼女に恋人ができた際に祝福するどころか「裏切り者」「お母さんが大切なら彼氏なんか作らないはずだ」と激昂する。娘のK子さんが「いい思いをする」ことを、母は許せないのだ。

 客観的に考えれば、そんな母はおかしい、と思うだろう。普通の親であれば、娘の幸せは喜ばしいはずだ。しかしK子さんのように毒親育ちの子どもは「自分が悪い」「自分さえ我慢すればいい」と考えてしまうようだ。

 本作は多種多様な毒親エピソードが掲載されているが、どれもコミカルタッチで描かれているため、読後に気分が落ちてしまう心配はない。母からの影響について悩んだり考えたりしている人たちが集まる「母あるある特別座談会」について描かれたページは、ほのぼのとしたムードも漂う。

“あるある”として描かれる毒母エピソードは、母との関係に疲れた人の中にためこまれた「毒」を吐き出してくれるかもしれない。

【母と娘の毒親エピソード】“女同士”の強烈な体験談を漫画化『うちの母ってヘンですか?』

 父と娘、母と息子など毒親と子の関係性はさまざまであるが、特に「母と娘」においては毒が強烈になることも多いという。

『それでも親子でいなきゃいけないの?』『母がしんどい』と同じ著者・田房永子さんが描いたコミックエッセイ『うちの母ってヘンですか?』(秋田書店)。本作は、子の人生を私物化する母親を持つ女性たちの体験談を漫画化したものだ。

『うちの母ってヘンですか?』(田房永子/秋田書店)
『うちの母ってヘンですか?』(田房永子/秋田書店)

「生ゴミ」と呼んでくる毒母から娘が逃げることにしたきっかけとは

 本作には13人の娘(内ひとりは男性)と“毒母”との壮絶なエピソードが収録されている。そのひとつに、ともこさん(32歳・OL)の体験談がある。

 幼い頃のともこさんは、何をしても母からビンタをされるのが基本。母は、ともこさんには容赦がないが、息子には甘いところもあったようだ。ともこさんがコタツに入っていると、母は息子(ともこさんの弟)に「あそこの生ゴミなんとかしてよー」と声をかける。実の娘を「生ゴミ」「捨ててきてよ」と言うのだ。

 ともこさんが大人になってからも、母の「毒」は変わらない。ともこさんが体調を崩すと、母は「アンタが悪いから病気になるんだ」と責め、なぜか薬を捨ててしまう。ある日、居間にいる両親を見て「殺す…」という感情が浮かんだともこさんは慌てて家を出て、そのまま6年以上両親に会っていないという。

過干渉の毒母からのストレスで拒食症、精神科にも通えず…

 暴力や暴言だけが毒親の特徴というわけではない。さとこさん(51歳・看護師)の母は、子どものすべてを把握していないと気が済まない過干渉タイプの毒母であった。さとこさんが幼い頃から、母はさとこさんの部屋のゴミ箱の紙クズをすべてチェックしていた。

 さとこさんは強烈な恋愛禁止教育を受け、19歳になると母から次々とお見合いをさせられる。母の気迫と条件の厳しさになかなかお見合いが進まないのであるが、「アンタがやせてて見栄えが悪いから話が来ないじゃない!」と母はさとこさんを責めるようになる。

 すでにストレスで拒食症だったさとこさん。母からすべて監視された生活で、精神科にもまともに通院できなくなったところで、家を出て母と距離を置くようになったそうだ。

 家出や逃げることには、親を捨てる、絶縁といったネガティブなイメージも一緒に浮かんでくる。そのため、子のほうが罪悪感を持ってしまうこともあるだろう。しかし自分の人生は、自分のもの。本作は、文字通り「毒」でしかない母親からは逃げ出していいのだ、とエールを送ってくれる1冊である。

【母と息子の毒親エピソード】毒母の愛を求めた息子の実録漫画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』

 毒親体験談には「母と娘」のエピソードがかなり多い。しかし息子には親の「毒」が及びづらい、というわけではないようだ。「母と息子」の壮絶な毒親エピソードを実録漫画化したのが『新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも』(歌川たいじ/KADOKAWA)である。

 本作は映画化もされており、著者の凄絶な生育歴と母親との確執を描ききった内容で多くの人の感動を呼んだ伝説的作品である。

『新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも』(歌川たいじ/KADOKAWA)
『新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも』(歌川たいじ/KADOKAWA)

どんなに酷い母でも嫌いになれない息子の毒親体験談

「きれいで人格者のお母さんの息子に生まれて、本当によかったわね」と近所のおばさんたちが口々に言うほど、著者(以下、たいじ)の母は美しい。しかしそんな母には、もうひとつの顔がある。たいじは母から死をも覚悟するほどの壮絶な虐待を受けていたのである。

 5歳の頃から母親からの暴力を受け、17歳で家出して職を得てからも過去の辛い体験に悩まされ続けるたいじ。母からの虐待は苛烈を極め、たいじは肉体的にも精神的にも追い詰められていた。

 しかし幼い頃のたいじは母のことが大好きで、どんな仕打ちを受けても、そんな母親からの愛情をずっと求め続けている。「毒」があるとはいえ、たいじにとって、愛を送ってほしい母親はこの世にひとりしかいない。

 母から受ける仕打ちは苛烈な内容であるが、血の繋がりはないものの、たいじを孫のように慈しむ「ばあちゃん」をはじめ、周囲の人たちの存在にたいじは救われる。たいじが自分の人生を歩み始めるなかで再び母と向き合うようになれたのも、周りの人たちの支えが大きかった。

毒親の末路、母もかつては「被害者」だったのか

 毒親とは向き合うより、逃げるほうがいいケースは多い。しかしたいじはどんなに酷くても、母のことを嫌いになれずにいる。これは母と息子という関係性も大きいのかもしれない。

 また本作はひとつの毒親の末路が描かれているといってもいい。実は母自身、傷を負う存在ということが明かされるのだ。

 親が発する「毒」は負の連鎖で引き継がれてきたものとも考えられる。もしも毒親への対処法があるとすれば、親の傷を知ることがひとつ、解決への手がかりになるのかもしれない。