《2021年本屋大賞》あなたが予想する大賞は!? ノミネート作品を総ざらい!

文芸・カルチャー

更新日:2021/2/24

 全国の書店員が「いちばん!売りたい本」を選ぶ「2021年本屋大賞」のノミネート作10タイトルが決定した。毎年大きな話題を呼ぶ同賞だが、一体今年はどの作品が大賞に選ばれるのだろうか。気になるノミネート作10作品の内容を総ざらいしよう。

犬のコーシローが12年間見つめた地方の進学校に通う18歳の青春――『犬がいた季節』伊吹有喜

お探し物は図書室まで
『犬がいた季節』(伊吹有喜/双葉社)

『犬がいた季節』は三重県の進学校を舞台に、18歳・高校3年生の生徒たちの物語を描く連作短編集。作中で流れる12年間は、生徒たちによって学校で飼われていた白いふかふかの毛の犬・コーシローが生きた時間。地方の進学校も、コーシローも、著者・伊吹有喜さんの母校と、そこに実在した犬がモデルなのだそうだ。伊吹さんはこの物語にどんな思いを込めたのだろうか。

 昭和、平成、令和…。時代を経て移り変わるそれぞれの物語は、その時代の音楽、流行、時事ニュースなどを背景に語られていく。地方都市ならではのリアリティも、随所に盛り込まれる。

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「18歳で選択をした後にも人生にチャンスはあるし、そのときにはもっと選択肢が広がっているかもしれない。そんな可能性を物語に託しました」(伊吹有喜インタビューより)

 優花と早瀬 の両片思い、広い世界へ飛び出した詩乃、少年時代を地元に置いて、東京へ向かった大輔 ――。彼らの行く末を確かめたあとに、ぜひカバーをめくってみてほしい。そこには素敵なプレゼントが隠れている。

司書との出会いがもたらすもの——青山美智子『お探し物は図書室まで』

お探し物は図書室まで
『お探し物は図書室まで』(青山美智子/ポプラ社)

「何をお探し?」と問いかける、不思議に安定感のある声。ひっつめた髪のてっぺんには、かんざしを挿したお団子が載っている。それが小町さゆりさん。『お探し物は図書室まで』(青山美智子/ポプラ社)に登場する司書だ。

 彼女が働いているのは、町のコミュニティセンターの一角にある、教室ほどの大きさの図書室。訪れる人たちはみんな、最初から本を探しているわけではない。ふらりと彷徨いこんだその場所で、小町さんから薦められた本を通じて、年齢も性別も職業もバラバラな5人の語り手たちが自分自身と対話し、内省し、一歩を踏み出していく。

 人生は、一足飛びに逆転したりすごいものになったりはしない。だけど少しずつ軌道修正を重ねていくことで、きっと自分が探していた何かに通じる道を見つけられるはず。著者・青山美智子さんの綴る言葉に耳を傾けていると、そんな勇気がふつふつと湧いてくるのである。

推しをもつ女子高生の切実な自尊心の保ち方——宇佐見りん『推し、燃ゆ』

推し、燃ゆ
『推し、燃ゆ』(宇佐見りん/河出書房新社)

 芥川賞受賞作であり、本屋大賞にもノミネートされた『推し、燃ゆ』(宇佐見りん/河出書房新社)はタイトルどおり、推しが燃える、すなわちSNSで炎上する話である。主人公のあかりは勉強やアルバイトだけでなく、生きる上で必要なあらゆることが「普通に」「ちゃんと」できない高校生。唯一頑張ることができるのは、「まざま座」というアイドルグループのメンバー・上野真幸を推すことだけ。推す、という言葉が普及したのはつい最近のことだが、ハマるとか追いかけるとかファンとか、そんな言葉では代替できない強さと熱がそこにはあるのだと、本書を読んでいるとよくわかる。

 彼女にとって、推しへの情熱を燃やし続けることは、自分でも頑張れることがあるのだという実感であり、生きる支えであり、背骨。失えば身体を支えられなくなって、地に伏してしまうほどのもの。現実にも身体の重みにも耐えられず、立つこともできない彼女がそれでももがき生きようとする姿は、推しをもたずとも生きることに不得手な人にきっと響くに違いない。

マッチングアプリに夢中の高校生は、なにを見つけるのか——加藤シゲアキ『オルタネート』

オルタネート
『オルタネート』(加藤シゲアキ/新潮社)

 「青春」とは、自分の輪郭を描くためにもがく期間だ。筆運びに自信がないし絵の具も少ない若者が戸惑うのは必然。その戸惑いを埋めるために使うツールは、今の時代でいえばSNSなのだろう。

 加藤シゲアキさんの『オルタネート』(新潮社)は、そんなSNSを介した現代の青春をあざやかに浮かび上がらせる。タイトルは作品内で描かれる高校生限定のマッチングアプリの名だ。オルタネートは、恋愛対象を探すだけでなく、仲間との絆を深める、同年代のトレンドを知る、旧友の居場所を探すなど、あらゆる目的に対応する。オルタネートを介して高校生たちは人と関わり、成長していく。それは一方で、オルタネートを利用しない、あるいは利用できない高校生を輪の外に追いやる。

 どんなにいびつでも、青春時代にみつけた自分自身は最高にうつくしい。そう思わせてくれる高校生たちの全力疾走は、この物語を手に取った大人たちの曲がった背筋も、ぽんと叩いて正してくれる。いつのまにか忘れかけた自分の輪郭は、きっと今からだって描きなおせるだろう。

子供たちが大人に抗う短編5作――伊坂幸太郎『逆ソクラテス』

逆ソクラテス
『逆ソクラテス』(伊坂幸太郎/集英社)

 デビュー20年を迎えた伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』(集英社)は、5つの短編からなり、いずれも小学生が主人公だ。小学生たちは大人の支配下にある無力な存在だが、この関係が逆転される痛快さこそが、本書の精髄だ。

 表題作では、偏見に満ちた久留米という教師が登場し、彼の振る舞いが子供たちに問題視される。子供のひとりが久留米のやることなすことは、「教師期待効果」にあたると言い始める。「教師期待効果」を要約すると「この子はできる」と期待して指導すればその通りになる、という(その逆も然り)意味らしい。そこで、子供たちはとある作戦を実行する。大人>子供、という関係を逆転せんと奮起するのだ。

 本書のタイトル『逆ソクラテス』とは、教養や知識があるにもかかわらず、自分を「無知」だと言ったソクラテスの逆、ということ。謙虚さの欠片もない大人たちの憐れさをやや戯画的に描く伊坂の筆致は実に冴えている。伊坂にとって明らかな新境地といえるだろう。

本の世界に飲み込まれていく街を救う少女たちの冒険!――深緑野分『この本を盗む者は』

この本を盗む者は
『この本を盗む者は』(深緑野分/KADOKAWA)

 本好きなら誰でも一度は「物語の世界の中に実際に入り込んでみたい」という願望を抱いたことがあるだろう。『この本を盗む者は』(深緑野分/KADOKAWA)は、まさにそんな願望を叶えてくれるようなファンタジー小説だ。

 主人公は、女子高生の御倉深冬。深冬の曽祖父で書物蒐集家の御倉嘉市が設立した「御倉館」は、彼女の住む街・読長町の名所だ。だが、当の深冬は本が大嫌いで、何年も本を読んでいない。ある日、「御倉館」から蔵書が盗まれ、深冬は残されたメッセージを目にする。“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”。すると、たちまち、読長町は本の物語の世界に侵食されてしまい…。

 この本にも、「御倉館」の本のように、きっと何らかの魔術がかけられているに違いない。本を開けば、物語の中から抜け出せなくなる。ああ、本を読むことは、こんなに楽しいことだったのか。この本は、それを改めて教えてくれた。そんな素敵な魔術を、あなたもぜひ体験してみてほしい。

“圧倒的な孤独”を描く注目の長編小説――町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』

52ヘルツのクジラたち
『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ/中央公論新社)

 町田そのこ氏初の長編小説『52ヘルツのクジラたち』では、家族によって人生を搾取された女性・貴瑚と、母から虐待を受け「ムシ」と呼ばれていた少年という愛情を求めながらも裏切られてきた2人が、運命的な出会いによって魂の物語を紡いでいく。

 タイトルにある「52ヘルツのクジラ」とは、他の個体には聞き取れないほどの高周波数で鳴くクジラのこと。その鳴き声は数十年前から観測されており、「世界でもっとも孤独なクジラ」として知られている。そんなクジラの生き方を思わせるような“圧倒的な孤独”こそが、本作に通底する大きなテーマだ。

 作中では現代社会のさまざまな“闇”が取り上げられているが、決して救いのない物語ではない。希望や優しさにも触れられるはずだ。

茨城のモールで働く32歳独身女性に共感!――山本文緒『自転しながら公転する』

自転しながら公転する
『自転しながら公転する』(山本文緒/新潮社)

 前作『なぎさ』から7年ぶりの小説。長かった。そして待った甲斐があった。山本文緒7年ぶりの新刊『自転しながら公転する』(新潮社)は、相変わらずリーダビリティーが高く、450ページ超という長さを感じさせない傑作である。

 舞台は茨城県の牛久市。主人公の都はアウトレットモールのアパレルショップで、非正規社員として働く32歳の女性だ。回転寿司屋で働く元ヤンキーの貫一に惹かれ、交際がスタート。だが、旅行先の温泉で予期せぬ出来事に出くわし、それが原因でふたりは会わなくなってしまう――。

 都の揺れ動く恋心はもちろん、この物語は、友人たちの恋愛事情、家族間の助け合い、結婚、出産までを扱った射程の長い小説だが、特に、彼女らのメイクや髪型や服装によって、その時のその人の心情が可視化されていくのが興味深い。場所や同行者や向かう場所によって、何を身につけるかをチョイスしていく。身繕いは女性にとって鎧兜のようなものかもしれない。

処方箋のような優しい短編集――伊与原新『八月の銀の雪』

八月の銀の雪
『八月の銀の雪』(伊与原新/新潮社)

 人生とは、こんなにもままならないものなのか。もし、あなたがそう思い悩んでいるのだとしたら、『八月の銀の雪』(伊与原新/新潮社)に救われるに違いない。

 作者の伊与原新さんは、地球惑星物理学の研究者をしていたという人物。作品にも、自然科学の知見が巧みに織りこまれ、それが物語を優しく照らし出している。人生に行き詰まりを感じる人々が、今まで知らなかった科学知識と出会い、それに自分自身を重ね合わせることで癒されていくのだ。

 たとえば、表題作「八月の銀の雪」では、就活連敗中の理系大学生・堀川と、彼の家の近所のコンビニで働くベトナム人店員・グエンとの交流が描かれる。キーワードは「地球の内核」。地球の内核に降るという雪。その雪が、先行きの見えない日々を過ごす堀川の心に白く優しく降り積もっていく。

 知識とは、人を豊かにし、勇気づけてくれるものなのだろう。この本を読むと、日々の生活で失われかけていた好奇心や行動力がぐんぐん蘇っていくような気がする。この本は、心をのびのびとさせてくれる一冊。疲れきった人にこそ手にとってほしい処方箋のような作品だ。

1カ月後に死ぬ運命だったら… “生きる”意味とは――凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』

滅びの前のシャングリラ
『滅びの前のシャングリラ』(凪良ゆう/中央公論新社)

 もし1カ月後、突然、地球に小惑星が衝突して人類が滅亡するとしたら、あなたは最後の日々をどう過ごしたいだろうか。『滅びの前のシャングリラ』(凪良ゆう/中央公論新社)は、滅びゆく世界の中で生きる人々の物語だ。

 1カ月後には滅びる世界。強盗、殺人、レイプ、あらゆる犯罪が横行し、都会に近づけば近づくほどその暴力性は増していく。いじめられっ子の17歳、江那友樹は、東京ドームのライブに行こうとする同級生・藤森雪絵の護衛を買ってでた。というよりはストーカーさながら、懐に包丁を仕込んで、彼女のあとをこっそりつけた。そして彼女の危機を救うことになるのだが…。

 「明日死ねたら楽なのに」と願っていたはずなのに、生々しい死を前にはじめて、生への渇望もわいてでた。生きるために他者を蹴落とし、そのことに罪悪感を覚え、自分を蔑みながらも、生きることをやめられない。でもだから、どうしようもなく愚かで身勝手な自分だから、やっと見つけた守りたいものだけは大事にしたいと愛を注ぐ。そうした人間のもつどうしようもない矛盾が、本作には描かれているような気がする。

 ノミネート作は多種多様。気になる大賞発表は4月14日(水)だというから待ち遠しい。結果発表にそなえて、ノミネート作を読み、自分なりの大賞予想をしてみるのも面白いだろう。今からどの作品が受賞するのか楽しみで仕方がない。

この記事で紹介した書籍ほか

犬がいた季節

著:
出版社:
双葉社
発売日:
ISBN:
9784575243253

お探し物は図書室まで

著:
出版社:
ポプラ社
発売日:
ISBN:
9784591167984

推し、燃ゆ

著:
出版社:
河出書房新社
発売日:
ISBN:
9784309029160

オルタネート

著:
出版社:
新潮社
発売日:
ISBN:
9784103537311

逆ソクラテス

著:
出版社:
集英社
発売日:
ISBN:
9784087717044

この本を盗む者は

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
9784041092699

52ヘルツのクジラたち (単行本)

著:
出版社:
中央公論新社
発売日:
ISBN:
9784120052989

自転しながら公転する

著:
出版社:
新潮社
発売日:
ISBN:
9784103080121

八月の銀の雪

著:
出版社:
新潮社
発売日:
ISBN:
9784103362135

滅びの前のシャングリラ (単行本)

著:
出版社:
中央公論新社
発売日:
ISBN:
9784120053405