TikTokで話題になった『残像に口紅を』だけじゃない! 今だからこそ読みたい、筒井康隆作品おすすめ3選

マンガ

更新日:2021/9/15

 平成のはじめに単行本として刊行された小説が、今、30年以上の時を経て、再び脚光を浴びている。その小説とは、筒井康隆の『残像に口紅を』(筒井康隆/中央公論)。人気TikToker・けんごが投稿した同作の紹介動画が話題を呼び、書籍があらゆる書店で品薄状態になっているのだ。『残像に口紅を』とは一体どのような作品なのだろう。また、筒井康隆の作品には、その他にどのようなものがあるのだろう。今回は、今の時代だからこそ読んでほしいオススメの3作品をご紹介する。

『残像に口紅を (中公文庫)』(筒井 康隆/中央公論新社)

『残像に口紅を (中公文庫)』(筒井 康隆/中央公論新社)

カズレーザーもオススメの実験的小説『残像に口紅を』の内容とは

 実は、TikTokで話題になった『残像に口紅を』は、お笑いタレント・カズレーザーもテレビ朝日系バラエティ番組「アメトーーク!」でオススメしていた作品だ。普通の小説だと思って手をつけると、きっと驚かされることになるだろう。この本は「実験的な小説」。「世界から『あ』を引けば」からはじまり、物語世界では、章を経るごとに小説のなかで使える50音の「音」が少しずつ減っていく。そして、音が消えると、その音が入った単語がすべて物語世界から姿を消していってしまうのだ。たとえば、「あ」が消えた世界では、主人公の妻は夫を「あなた」と呼びかけることができなくなっているし、2人の間には「愛」もなくなっている。だが、主人公にはどの「音」が消えたかはわからない。あとに残るのは、何かが失われてしまったという喪失感だけ。「音」が減っても物語がしっかり紡がれていくことに感動せずにはいられないだろう。この本が長い間、多くの人に親しまれてきた意味がわかる名作だ。


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『堕地獄仏法/公共伏魔殿 (竹書房文庫 つ 3-1)』(筒井 康隆, 日下 三蔵, 木原 未沙紀/竹書房)

『堕地獄仏法/公共伏魔殿 (竹書房文庫 つ 3-1)』(筒井 康隆, 日下 三蔵, 木原 未沙紀/竹書房)

「こんなこと書いちゃって大丈夫?」筒井康隆による皮肉とユーモアの極上SF短編集

 この本は、猛毒だ。「危険」と注意喚起しても良いくらいだ。「こんなこと書いちゃって大丈夫なの?」とドキッとしてしまうような皮肉とユーモア。その刺激がいつの間にか病みつきになってしまうのが、『堕地獄仏法/公共伏魔殿』(筒井康隆/竹書房)だ。某組織を皮肉り、諸事情によりあらすじさえ書けない「堕地獄仏法」。巨大な権力をもった某公共放送の体制を描き、読めば、恐ろしさから受信料を払わずにはいられなくなりそうな「公共伏魔殿」…。その他、この本に収載されているのは、筒井康隆の初期傑作短編16作。どの作品も1960年代に書かれたものだが、今発表されたとしても納得の内容だ。マスコミや政治家、大衆への辛辣な批判は、現代の人の心にこそ、響くのではないか。皮肉とユーモアの極上のSF短編小説集をぜひあなたも味わってみてほしい。



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『創作の極意と掟 (講談社文庫)』(筒井康隆/講談社)

『創作の極意と掟 (講談社文庫)』(筒井康隆/講談社)

全作家とその志望者、本好き、文章を書く人(ブロガーも?)も必読! 筒井康隆による「小説作法」

 小説を読んで「これなら自分にも書けそうだ」と思って書いてみたがすぐ挫折した、という人は結構いるだろう。しかし筒井康隆は「小説は誰にでも書ける」と『創作の極意と掟』(筒井康隆/講談社)で語っている。「この文章は謂わば筆者の、作家としての遺言である」という書き出しから始まる本書には、様々な小説技法のイロハが詰まったエッセイだ。基本的に「小説作法」についての話が書かれているのだが、「作家はこういうことに気をつけて書いている」という解説は、文章を書く上で気をつけるべきポイントが学べるだけでなく、小説をより面白く読めるための方法をも知ることができる。小説家とその志望者はもちろんのこと、本好き、文章を書く人(ブロガーも?)など、あらゆる人に役に立ちそうな一冊だ。


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 3つの作品をご紹介したが、筒井康隆は、その他にも数えきれないほど、たくさんの作品を描いている。日本のSF小説の第一人者、として知られているが、SF以外にもショートショートやミステリー、社会風刺もの、ホラー、エッセイなど、ジャンルも様々。普段から本を読む人も、あまり本を読まないという人も、きっと心を揺さぶる作品に出会えるに違いない。刊行から月日が経っていてもどの作品も古びず、どれもまるで今書かれた作品のように面白い。そんな筒井作品の魅力を、TikTokでのブームをきっかけに、ぜひともあなたも体験してみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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