『ゴルゴ13』さいとう・たかを氏の知られざる制作秘話と今こそ読むべきオススメ本4冊

マンガ

更新日:2021/10/5

『ゴルゴ13』『鬼平犯科帳』などの著作で知られる劇作家・さいとう・たかを氏が9月24日、84歳で逝去した。特に、1968年から連載がはじまった『ゴルゴ13』は、6月に単行本201巻が刊行され、「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」として、ギネス世界記録に認定されたばかりだった。さいとう・たかを氏はどのような人物だったのか。彼の仕事にかける情熱や制作秘話が明かされた記事、今こそ読むべきオススメ本をご紹介するとしよう。

『鬼平流』(さいとう・たかを/宝島社)

『鬼平流』(さいとう・たかを/宝島社)

「仕事とは人生である」さいとう・たかを氏が語る人生指南本

 80歳をすぎても、月産ページ数はコミックの世界で最高枚数を誇っていたという巨匠さいとう・たかを氏。さらには、掲載中の休載は一度もなかったというから驚きだ。そのバイタリティーや原動力は、一体どこからきているのだろうか。そんな同氏の考え方を覗き見ることができるのが、『鬼平流』(さいとう・たかを/宝島社)だ。本書は、さいとう氏が創作活動で磨き続けてきた美学と重ね合わせるように、劇画『鬼平犯科帳』の主人公である長谷川平蔵やさまざまな登場人物たちを紹介する構成となっている。まるで彼の仕事場を訪ね、いろいろ見聞しているかのよう。さいとう氏の言葉の力強さが、ページのこちら側まで伝わってくる。話し口調で平易であるものの、簡潔でキリリとした文章には、読み手の気持ちが引き締まる。


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『ゴルゴ13(1) (コミックス単行本)』(さいとう・たかを/小学館)

『ゴルゴ13(1) (コミックス単行本)』(さいとう・たかを/小学館)

ゴルゴ13のモデルは高倉健だった!? 作者 さいとう・たかをが語る制作秘話

 恐るべき暗殺者の暗躍を描いた国民的人気マンガ『ゴルゴ13』(さいとう・たかを/リイド社)。読んだことがないという人も、凄腕スナイパーというキャラクターや「うしろに立ってはいけない」などの設定は誰もが知っていることだろう。この作品はどのように誕生したのだろうか。『ダ・ヴィンチ』2014年3月号「マンガヒーロー&ヒロインランキング」特集ではさいとう・たかを氏がその制作秘話にを明かしている。連載にあたって編集部から出された注文は、「強烈に印象が残る主人公にしてほしい」ということだけ。「それなら悪に限る」と思い、「非情な殺し屋」という設定が生まれたのだそうだ。イメージしたのは高倉健さん。年齢は当時のさいとう氏よりひとつ上の32歳ということにした。デューク東郷という名前は、さいとう氏の中学校時代の恩師・東郷先生から拝借し、あとは、みんなで話し合いながら作りあげていったのだそうだ。制作秘話を知った上で、『ゴルゴ13』を読み返すと、ますます物語を楽しめそうだ。


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『ゴルゴ13(179) (コミックス単行本)』(さいとう・たかを/小学館)

『ゴルゴ13(179) (コミックス単行本)』(さいとう・たかを/小学館)

『ゴルゴ13』179巻でゴルゴ13が遂行する新たな4つのミッションとは

 狙った獲物は逃がさない。『ゴルゴ13 第179巻 恐慌前夜』(さいとう・たかを/リイド社)では、ゴルゴ13こと、デューク東郷に新たな依頼が舞い込んだ。金融、スポーツ、軍事機密、国防…。業界も国も依頼者の狙いも全く異なる状況下で、共通するのは「ゴルゴ13以外には成し得ない困難な依頼」だということ。ゴルゴ13が関わる以上、成功するのは当然だ。それでも、その仕事のひとつひとつが単調な出来事に終わらないのは、依頼に関わる人間たちの野望や欲望、我々が知らない社会の裏側で蠢く権力や金、世界を覆しかねないスケールの大きな状況が用意されているからだ。そして、その不可能ミッションを、表情ひとつ変えずに遂行するゴルゴ13。その超A級の完璧な腕前、一発の弾丸が、読者の心をも撃ち抜いてしまう。


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『ゴルゴ13(180) (コミックス単行本)』(さいとう・たかを/小学館)

『ゴルゴ13(180) (コミックス単行本)』(さいとう・たかを/小学館)

「連載を落とすなんてもってのほか」さいとう・たかを『ゴルゴ13』は「オチ」を先に決める、その利点とは?

『ゴルゴ13 第180巻 ギザの醜聞』(さいとう・たかを/リイド社)。この巻が刊行された2015年は、さいとう・たかを氏が画業60年周年を迎えた年だった。「ダ・ヴィンチ・ニュース」では、さいとう氏に青年コミックの原点とも言うべきさいとう劇画の世界と『ゴルゴ13』などについて取材を行っている。さいとう氏はいつもオチから物語を考える。それは少ないページ数でもドラマをつくりあげるため。もともと『ゴルゴ13』は10回連載の予定で、最終回はストーリーやコマわりまでさいとう氏の頭の中にできあがっていたのだそうだ。最終回ができていて、その間に挿話を組み込むように描いているのが『ゴルゴ13』の連載。だから何年でも続けられたという。ゴルゴはどこまで続くか…という問いに対し、「描き続けられる限り」と答えていたさいとう氏。一体、さいとう氏は『ゴルゴ13』の最終回をどのように思い描いていたのだろうか。


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 生前、さいとう・たかを氏は、自身が長らく漫画家として活躍できたのは、さいとう・プロダクションのスタッフの支えがあったからだと語っていた。さいとう氏は、マンガも映画のように分業で作るべきだと考え、作品制作過程における分業化をはかり、プロダクション形態の劇画制作システムを構築してきた。ビッグコミック編集部によれば、『ゴルゴ13』においても、脚本協力、作画など各分野をそれぞれのプロフェッショナルたちが担当、その全体をさいとう氏が指揮し、そしてもちろんご自身も構成、作画、脚本と何役もこなした上で作品作りを進めてきたのだという。そして、生前から「自分抜きでも『ゴルゴ13』は続いていってほしい」と、いわば分業体制の究極ともいえる希望を持たれていたのだそうだ。今後も、さいとう・たかを氏の遺志を受け継ぎ、さいとう・プロダクションが作画を手がけ、加えて脚本スタッフとビッグコミック編集部とが力を合わせて『ゴルゴ13』の連載を継続していく。さいとう氏亡きもまだまだ彼の生み出した作品は私たちを楽しませてくれそうだ。

文=アサトーミナミ

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