【逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』 が、2022年本屋大賞に決定!】1~10位まで、全作品の内容を一挙紹介!

文芸・カルチャー

更新日:2022/4/9

 全国の書店員が選ぶ、いま一番売りたい本を決める「本屋大賞2022」の受賞作が4月6日決定した。19回目となる今回のノミネート作品10作の中から大賞に選ばれたのは、逢坂冬馬氏のデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)だ。本作は、第二次世界大戦中の独ソ戦が舞台。女性だけの狙撃小隊に配属された主人公を軸に、戦争の最前線で戦ったソ連兵士たちの生と死の物語が描かれる。すでに、史上初、選考委員全員が満点という評価で、「第11回アガサ・クリスティー賞大賞」を受賞しており大きな話題となったが、その後も第166回直木賞にノミネート、さらに今回の「本屋大賞2022」大賞受賞とデビューから僅かの間で華々しい偉業を見せた。現在、ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が続く中、図らずも本作の注目度が高まっている。受賞後のインタビューで逢坂氏も複雑な心境を漏らしていたが…。ここで改めて「本屋大賞2022」1~10位の受賞作品を振り返りたい。

(※1位~10位の順で紹介)

『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂 冬馬/早川書房)

『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂 冬馬/早川書房)

 大賞を受賞した逢坂冬馬氏の『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)は、第二次世界大戦中でも凄惨を極めたと言われる独ソ戦が舞台。女性だけの狙撃小隊に配属された少女セラフィマを軸に、女性も男性とともに戦争の最前線で戦ったソ連兵士たちの生と死の物語が描かれる。凄惨な戦争の姿を描きながら、緻密に考え抜かれたプロット、人物造形、そして妥協なき考証とディテールと圧倒的なリーダビリティで、デビュー作ですでに完成されているとまで言われた本作。逢坂氏は、執筆の理由に「まだ誰もやってなかった」という点と「独ソ戦のイメージが日本では独特のゆがみ方をしているという気がした」ことを挙げている。人々の暮らしは、突如奪われる。日常と家族を奪った敵に復讐をはたすべく、戦うことを選んだセラフィマは、やがて、赤軍女性狙撃小隊の一員として独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へ向かうことに。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
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『赤と青とエスキース』(青山 美智子/PHP研究所)

『赤と青とエスキース』(青山 美智子/PHP研究所)

 青山美智子氏の『赤と青とエスキース』(PHP研究所)は、1枚の絵画をめぐる連作短編集。青山氏といえば、デビュー作『木曜日にはココアを』や2021年本屋大賞2位に選ばれた『お探し物は図書室まで』などがあり、どの作品にも、人生につまずきを感じている人を包み込むような優しさがある。だが、『赤と青とエスキース』はそれだけではない。本作には、大きな仕掛けが隠されている。ひとつひとつピースを集めるように物語を読み進めてくると、見えてくる1枚の大きな絵。その像が見えてきた時、その美しさに思わず息を飲むだろう。話の中心となるのはメルボルンの若手画家が描いた一枚の絵画。タイトルは「エスキース」。日本語で「下絵」を意味するその作品のモデルとなった女子大生のレイがこの作品の最初の主人公だ。メルボルンに留学中の女子大生・レイは、現地に住む日系人・ブーと恋に落ちた。だが、レイは1年の留学期間が終わったら、日本に帰国しなければならない。そこで、彼らは「期間限定の恋人」として付き合い始めることになるのだが――。本作で描かるたくさんの愛に触れるにつれて、心がどんどん満たされていく。そんな体験をぜひ本書で。
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『スモールワールズ』(一穂 ミチ/講談社)

『スモールワールズ』(一穂 ミチ/講談社)

 一穂ミチ氏の『スモールワールズ』(講談社)には、さまざまな家族が登場し、それぞれの歪な苦しみが丁寧でやさしい筆致によって描かれている。収録されている6編は、いずれもそういった家族の問題を浮き彫りにする。たとえば「ネオンテトラ」という1編。主人公の美和は不妊に悩む女性だ。夫はやさしいが、他の女性と浮気をしている。美和はそれに気づいているものの、それでも子どもを望んでいる。そんな美和の前に現れたのが、親から虐待まがいのことをされている中学生の笙一。どうしてもそれが気になった美和は笙一に近づく。ふたりを結びつける絆の名は“孤独”だろう。子どもができないことに焦り、夫からは裏切られている美和。親としての資格があるとは到底言えない大人のもとで育てられている笙一。ともに重さや意味は異なるが、その胸中にあるのは孤独感である。では、そんなふたりがどこに着地するのか。そのラストを読めば、きっと誰もが驚くに違いない。
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『正欲』(朝井リョウ/新潮社)

『正欲』(朝井リョウ/新潮社)

 朝井リョウ氏の作家10周年記念作品『正欲』(新潮社)は、呑気に多様性を語る私たちに刃を突きつけるような作品。「すべての人を認める社会」を目指すと言いながら、私たちは理解ができないもの、距離を置きたいと感じるものには、しっかりと蓋をする。「多様性」の名のもとにマイノリティを迫害していく私たちの残酷さをこの本は暴いていくのだ。物語は章ごとにさまざまな登場人物たちの視点で語られていく。検察官・寺井啓喜。寝具店店員・桐生夏月。学園祭実行委員の大学生・神戸八重子…。一見すると何の共通点もない登場人物たちはどう結びついていくのか。この作品は、簡単にはあらすじを書けない。何の先入観も持たずに、この物語の衝撃をもろに食らってみてほしい。
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『六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)』(浅倉 秋成/KADOKAWA)

『六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)』(浅倉 秋成/KADOKAWA)

 第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞してデビューした浅倉秋成氏は、2019年に発表した『教室が、ひとりになるまで』(KADOKAWA)が、第20回本格ミステリ大賞と、第73回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にWノミネートされ、ミステリ界をざわつかせた。思春期ならではの「こじらせ」を描くことや個性あふれるキャラクターの造形に長けており、鮮やかな伏線回収にも賞賛の声が寄せられている。そんな鬼才がこの度テーマに選んだのが、「就活」という人生の一大イベント。若者に大人気のSNSを運営するIT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った6人の就活生。彼らに与えられた課題は1カ月後の最終選考日までに互いのことを隅々まで理解し合い、6人でひとつのチームを作り上げ、ディスカッションを行うこと。ディスカッションの内容がよければ、全員に内定が出される可能性もあると告げられた。異例の選考方式に戸惑いつつも協力し合い、全員で内定をつかみ取ろうと奮闘し、絆を深めていく姿の「青春」とも呼べるストーリー展開は、最終選考の方法が変わったことで一変し殺伐としたものになっていく――。
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『夜が明ける』(西加奈子/新潮社)

『夜が明ける』(西加奈子/新潮社)

 この世知辛い世の中で、もっとも言葉にするのが難しいのは、「たすけて」という四文字だと思う。どんなに辛く苦しいことがあっても、「大丈夫」だと自分をごまかしながら生きている人はきっと少なくない。だが、本当はもっと周囲に頼っていいのだ。そんなことを教えてくれるのが、西加奈子の最新作『夜が明ける』(西加奈子/新潮社)。思春期から33歳になるまでの2人の男の友情と成長、そして、奇跡を描いたこの物語には、夜の闇のような重苦しい空気が立ち込めている。西氏は「書きながら、辛かった」と振り返るが、読み手としても読めば読むほど、この物語は胸を苦しくさせていく一方だ。一生懸命生きているだけなのに、どうして彼らの人生はこんなに思うようにいかないのだろう。経済的な困窮に、次第に蝕まれていく心。次から次へと2人を待ち受ける理不尽な出来事が突き刺さってくるかのようだ。だが、明けない夜はない。救いは必ずある。共鳴必至の救済と再生の物語。
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『残月記』(小田 雅久仁/双葉社)

『残月記』(小田 雅久仁/双葉社)

 2021年11月に発売された小説家・小田雅久仁氏のSFオムニバス作品『残月記』(双葉社)。およそ9年ぶりの新作ということで、読書家の間で大きな注目を集めた本作。収録作全3編に共通するモチーフは、『竹取物語』をはじめ古今東西の物語作家たちが想像力を競い合ってきた、月。登場人物たちは実際に、月世界へと飛び立つ。あるいは、月の作用によって現実がガラッと塗り替えられてしまった世界を生きる。表題作の「残月記」は、パラレルワールドの近未来の日本で、悪名高き独裁政治下において、人々を震撼させている感染症「月昂(げっこう)」に冒された男の宿命と、寄り添って生きる女との一途な愛を描いていく――。娯楽は、ファンタジーは、人を救う。そんな感情が読後に芽生えるだろう、超大作。
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『硝子の塔の殺人』(知念 実希人/実業之日本社)

『硝子の塔の殺人』(知念 実希人/実業之日本社)

 現役医師としての知見をもとに、医学知識を取り入れたミステリを執筆してきた知念実希人氏の本格ミステリ愛が大爆発したのが、『硝子の塔の殺人』(実業之日本社)だ。円錐状の奇妙な館、連続密室殺人、雪に閉ざされたクローズドサークル、読者への挑戦状、名探偵の推理……。これらのキーワードを聞くだけでも、本格ミステリとがっぷり組み合う本気度が伝わってくる。ミステリを愛する富豪によって「硝子の塔」に集められた刑事、霊能者、小説家、編集者らが、次々に起きる惨劇に巻き込まれるという設定も、ぞくぞくするではないか。さらに、冒頭から何らかの罪を犯したとおぼしき主人公の独白が始まり、叙述トリックのような趣向も。作中には、物理トリック、暗号など、バリエーション豊富な謎が豪勢に詰め込まれている。
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『黒牢城 (角川書店単行本)』(米澤 穂信/KADOKAWA)

『黒牢城 (角川書店単行本)』(米澤 穂信/KADOKAWA)

 舞台は本能寺の変の4年前、天正6年(1578年)の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った摂津国の武将・荒木村重が主人公だ。籠城しながら毛利輝元の援軍をひたすら待つばかりの村重。そんな彼のもとに、翻意を促すため、織田方の軍師・黒田官兵衛が訪ねてくる。追い返すか斬るべきという当時の常識に反して、村重は官兵衛を城内の土牢へと閉じ込める。しかし、官兵衛が「この戦、勝てませぬぞ」と言う通り、戦況は悪化するばかり。さらに、周囲の城が寝返る中、難事件が相次いで巻き起こる。翻弄され、揺れ動く武将たちの心。自ら現場を検分するも謎が解けない村重は、官兵衛に知恵を借りようと試みが――。
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『星を掬う (単行本)』(町田 そのこ/中央公論新社)

『星を掬う (単行本)』(町田 そのこ/中央公論新社)

 昨年、『52ヘルツのクジラたち』で「2021年本屋大賞」を受賞した、町田そのこ氏の受賞後一作目が、すれ違う母と娘の物語を描く『星を掬う』(中央公論新社)だ。新たな物語は、“娘”のやりきれない現在地から始まる。「おめでとうございます。芳野さんの思い出を、五万円で買い取ります」。ラジオ番組の賞金欲しさに、小学校1年生の夏休み、母と旅行した思い出を投稿した芳野千鶴。物静かだった母が初めて見せた表情、行った先々での楽しい時間。だがその旅の終わりに彼女は母に“捨てられた”。その日から22年、千鶴は自分も、その人生も好きになることができずにいた…。読む人の背中をそっと押す本書の優しさに触れてみてほしい。
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「本屋大賞」に選ばれた作品は、全国の書店で実際に働く書店員の方々が「この本を読んでほしい!」と投票した太鼓判の一冊。ぜひ読みたい本を見つけてみてほしい。

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本屋大賞公式サイト

本屋大賞公式サイト ▶https://www.hontai.or.jp/