「今の働きかたってどうなんだろう?」自分の働きかたを見直したくなるお仕事小説5選

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/2

 長時間労働。安すぎる給料。わからずやの上司と、生意気な後輩…。決して良いとはいえない職場環境で過ごす日々の中で、「今の働きかたを続けていていいのだろうか」と感じている人も多いに違いない。そんな人はお仕事小説を読むのがいいかもしれない。上手くいかない仕事と向き合う主人公の姿に勇気づけられたり、「別の仕事を探してみるのもありかも」と思わされたり、お仕事小説には私たちの仕事に活かせる発見がある。そんな自分の働きかたを見直すキッカケをくれるお仕事小説を5つご紹介するとしよう。

『きみはだれかのどうでもいい人 (小学館文庫)』(伊藤朱里/小学館)

『きみはだれかのどうでもいい人 (小学館文庫)』(伊藤朱里/小学館)

 誰もが被害者であり加害者でもある――そんなメッセージを描いた連作短編『きみはだれかのどうでもいい人』(伊藤朱里/小学館)は、読めば職場の見えかたが変わってくる衝撃の物語だ。

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 各短編の主人公は、地方の県税事務所で働く4人の女性。エリート若手職員や心に不調を抱えた職員、ベテランパートに、お局様…。年齢も立場もさまざまな女性たちは、同じ職場で同じ時を過ごしながら、それぞれの言い分を抱えて生きている。4人それぞれの視点の物語を読むと、傷つけた側の言い分にも、傷つけられた側の言い分にも、一理あることに気づかされる。この本には、今までうまく言語化できなかった職場での思いが繊細に描き尽くされているといっても過言ではない。職場で傷ついたことのある全ての人必読。この読書体験を、ヒリつくような心の痛みを、ぜひともあなたにも味わってみてほしい。


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『彼女の背中を押したのは (角川書店単行本)』(宮西 真冬/KADOKAWA)

『彼女の背中を押したのは (角川書店単行本)』(宮西 真冬/KADOKAWA)

彼女の背中を押したのは』(宮西真冬/KADOKAWA)は、私たちの生きづらさを描き出したような物語。妹がビルから飛び降りた事件の真相を追うミステリーであり、書店で働く女性たちの苦悩をありありと描き出したお仕事小説でもあるこの作品を読めば、心の中で何かが共鳴するだろう。

 この物語の書店員たちは「本が好きだから」と頑張り続けてきた。だが、上に立つ者は決して頑張りを認めず、特に女性は、いつ結婚や出産で辞めるかわからないからと、正当に評価されない。不当な扱いを受ける女性たちの姿は、書店で働いた経験がなくとも、共感させられること間違いなし。だが、クライマックスにはそんな彼女たちに救いが待ち受けている。爽やかな読後感を味わいながら、仕事に悩んでいたのは自分だけではなかったのだと気づかされるだろう。読めば、きっとあなたの「働きづらい」毎日にも変化が訪れるに違いない1冊。


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『店長がバカすぎて』(早見和真/角川春樹事務所)

『店長がバカすぎて』(早見和真/角川春樹事務所)

店長がバカすぎて』(早見和真/角川春樹事務所)は、書店で働く契約社員・谷原京子の物語。コメディー要素やミステリーの要素も持つこのお仕事小説は、数々のストレスにうんざりしながらも仕事を頑張る私たちを応援してくれる。

 大好きな本に囲まれて働いているはずの京子の日常は気苦労が絶えない。そんな彼女の奮闘を通して、書店員の仕事がリアルに描かれているのが本作の魅力だが、もちろん、働く京子の姿に共感できるのは書店員に限らないだろう。話の通じない店長、憧れの先輩の退職、気の強い後輩、理不尽な客に不遜な態度の取引先など、職場のやっかいな人間関係とそれに伴うストレスは、ほかの業界にも通じる。本が好きな人や仕事にストレスを抱えている人におすすめ。笑いと感動、そして苦しい現実を乗り越えるための元気を得られる1冊。


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『三十の反撃』(ソン・ウォンピョン/祥伝社)

『三十の反撃』(ソン・ウォンピョン/祥伝社)

三十の反撃』(ソン・ウォンピョン/祥伝社)は、貧困にあえぐ経済的弱者が登場する、社会問題を扱った韓国文学。経済格差は広がるばかりだし、大学を出ても正社員にはなれず、ブラック企業に搾取されるばかり。そんな状況を描き出した物語は、まるで日本に蔓延する問題を描いているような、他人事とは思えない内容だ。

 主人公はDMという大手企業でインターンを務める、アラサー女性のジヘ。ジヘは「実力が認められれば正社員になれるかも」という淡い期待を抱き、居心地の悪い職場で陰々滅々とした日々を過ごしている。だが、DMへの恨みを晴らすために入社してきたギュオクは、「やってみなくちゃ何も変わらない」と言い張り、自分をリーダーとする非正規職員の一団を結成する。巨悪を前にしてひるまない彼の行動はなんて痛快なことか。この作品に描かれているのは、私たちの問題といっていいだろう。今の日本でこそ切実に読まれるべき小説といえる1冊。


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『会社を綴る人』(朱野帰子/双葉社)

『会社を綴る人』(朱野帰子/双葉社)

会社を綴る人』(朱野帰子/双葉社)は、なにをやってもダメな男・紙屋が必死で職務に向き合うという、ひたすら地味な筋書きだ。けれど、読み進めていくうちに、主人公の日常が、いや、冴えない自分の毎日だって、なんだかドラマティックに思えてくる――そういうふうに、私たちに寄り添ってくれる物語である。

 読めば読むほど明らかになるのは、誰もが仕事に悩んでいるということ。手でものを作ること、足を動かして客先を回ること、頭を使って会社を経営すること、指先で文章を綴ること。どんな仕事も、苦しく、つらく、それ以上の喜びと誇りがある。知ってほしいなら、黙ってはいけない。変えたいのなら、動かなければはじまらない。1冊を読み終わるころには、読み手であるあなたの心にも、紙屋が起こした変化を、はっきりと感じることができるだろう。


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 お仕事小説を読んでいると、だんだんと気づかされていく。悩んでいたのは何も自分だけではない。誰もが上手くいかない仕事とどう向き合っていいのか、日々苦しんでいるに違いないのだ。その事実がどれだけ私たちの心を救ってくれるかわからない。今の仕事を辞めるべきか、もう少し頑張ってみるべきか。仕事に悩み、奮闘するお仕事小説の主人公たちの活躍をもとに、今の自分の働きかたについて、あなたも見つめ直してみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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