『友情』平尾誠二と山中伸弥の知られざる絆。共に癌と闘った大親友と家族の物語

スポーツ・科学

公開日:2017/10/13

『友情~平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』(山中伸弥 平尾誠二・惠子/講談社)

 選手・監督として日本のラグビー界を牽引したミスター・ラグビーこと故・平尾誠二氏と、iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏は唯一無二の大親友だったということをご存じだろうか。肝内胆管癌であることを公表せずに気丈に振る舞い続けた平尾氏と、多忙なスケジュールの中、彼の闘病を全力で支え続けた山中氏との知られざる友情秘話が『友情~平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』(山中伸弥 平尾誠二・惠子/講談社)で初めて明かされた。両氏がラグビーボールを一緒に持ったツーショットの表紙がとても格好よく穏やかで、二人の関係の深さが伝わってくる。

■大人になってから出会ったかけがえのない友

 それぞれ全く異なる分野で日本を代表する著名人である平尾誠二・山中伸弥両氏は、実は同学年で、2010年9月30日に『週刊現代』の対談で初めて顔を合わせる。息がぴったりと合った二人は急速に仲良くなり、やがて親友と呼べる関係になった。何度も酒を酌み交わし、ゴルフに出掛け、家族ぐるみで食事を重ねた。互いに尊敬し合い、心の底から分かち合える親友を、四十代になってから作ることができたことに山中氏は驚いたという。この幸せな関係がずっと続けばいい―そんな矢先に末期の癌が平尾氏を襲った。

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■余命3か月「僕は山中先生を信じるって決めたんや」

 平尾誠二氏死去の報道で、ラグビー界のみならず日本中が悲しみに暮れた。見る見るうちに痩せ細っていき、それでも精力的に外に出て仕事をこなしていた平尾氏に対して「平尾誠二は癌ではないか」などの噂もささやかれていたが、死後しばらく経つまで肝内胆管癌であったことは伏せられていた。

 本書の第一章は山中伸弥氏の立場から、第二章は平尾誠二氏の妻・惠子氏の立場から友情と闘病、それに家族の出来事が語られている。癌が発覚したときにはもう治療が困難な状態だったが、山中氏は「自分の全力をかけます。この僕の言うことを聞いてください」という言葉通り、日米を往来する多忙なスケジュールの合間を縫って平尾氏の治療に全力で向き合い、平尾氏のみならず彼の家族の心の支えとなったのだ。

主人が病気になって、家族の絆はいっそう強まりました。ラグビーでいえば、堅いスクラムのように。そこに山中先生と知佳さん(山中氏の妻)が加わり、スクラムはさらに強固になりました。(106頁・惠子氏)

山中先生は「平尾さんと一緒に闘えて幸せです」とおっしゃっていましたが、平尾誠二が平尾誠二らしく最後まで諦めずに闘えたのは、山中先生のおかげだと私は思っています。(128頁・惠子氏)
 

■一流同士で共有される価値観

 本書の第三章は、二人が出会うきっかけとなった『週刊現代』の対談が、未公開部分も含め、山中氏の後日談とともに掲載されている。本書に何度も登場する平尾氏の「人を叱る時の四つの心得」もこの対談で語られており、根性論が根強かった日本のラグビー界に理論派として改革を起こした彼の思想の深淵を覗き見ることができる。医学とスポーツという異なるフィールドで日本を代表する二人の対談はかなり深い部分まで洗練され、分野が違っても共通する「一流のモノの見方」が垣間見える。

 二人の男の絆、家族の支え、そこにはとても強い人間としての底力がある。10月20日は平尾誠二氏の一周忌である。現在も進歩し続ける日本ラグビー界の礎を築いたレジェンドである平尾氏のことを振り返る人も多いことだろう。二人の偉大な男の関係を語る本書は、私たちに多くの大切な事を気付かせてくれる。

文=K(稲)