ほんらぶインタビュー あの人のトクベツな3冊 麻生久美子さん

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更新日:2013/8/13

シンプルで、自由で、温かくて深い。そんな“愛”に気づかせてくれる3冊

麻生久美子
あそうくみこ●1978 年生まれ。千葉県出身。ヒロインに抜擢された『カンゾー先生』(98/今村昌平監督) で第22回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、同新人賞、ほか多くの映画賞に輝き一躍注目を集める。主な映画出演作に、『THE 有頂天ホテル』(06/三谷幸喜監督) 、『夕凪の街 桜の国』(07/佐々部清監督) 、『ハーフェズ ペルシャの詩』(08/アボルファズル・ジャリリ監督)、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(08/塚本連平監督)、『純喫茶磯辺』(08/吉田恵輔監督)、『アキレスと亀』(08/北野武監督) 、『おと・な・り』(09/熊澤尚人監督)、『インスタント沼』(09/三木聡監督)、『シーサイドモーテル』(10/守屋健太郎監督) 、『ロック〜わんこの島〜』(11/中江功監督)、『日輪の遺産』(11/佐々部清監督)などがある。『モテキ』(11/大根仁監督)では第35回日本アカデミー賞(2012年発表)優秀助演女優賞受賞。近作は『宇宙兄弟』(12/森義隆監督)、『ガール』(12/深川栄洋監督) 、『おおかみこどもの雨と雪』(12/細田守監督)など。『グッモーエビアン!』では元パンクロッカーの母親・アキを演じる。

「私、愛なのかなぁ。愛なんですかね、今がね」

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 そう言って笑う麻生久美子さんが選んだ3冊は、それぞれ家族愛、夫婦(男女)愛、人類の愛を描いた作品だ。

『グッモーエビアン!』の主人公は15歳の少女・ハツキ。自称“永遠の24歳”で元パンクスの未婚の母・アキと、血も戸籍もつながらない万年バンドマンの父・ヤグとの、破天荒だが温かい家族小説。麻生さんは12月に公開される映画で母・アキ役を演じている。文庫収録の解説も執筆しており、いわく、“空にコブシを突き上げたくなる”爽快な読後感。

「読み終わったあとはとにかく清々しくて。1冊の本に集中することってあまりないんですけど、この本は一気読みしちゃいました。私の場合は、ハツキとシンクロするところがたくさんあって感情移入しすぎたっていうのもあるけど。私も子供の頃に、突然血のつながらないお父さんが現れたことがあるんですよ。だからハツキの、お父さんは大好きなんだけどなんて呼んだらいいかわからない、とか、口には出せない小さな悩みを悶々と抱えているところは、すごくよくわかります。アキに感情移入できたのは、ひと通りハツキに共感したあとでした(笑)」

 もともとオファーがきたときは、自分のイメージとは違いすぎて戸惑ったという麻生さん。「そんなに遠くなかったのかも」と思えたのは映画を撮り終えて小説を読んだあとのこと。

「私も娘が成長したらアキみたいな感じで娘に接したいなと思いますね。アキとハツキの母子関係って、“親は親”っていう線引きはちゃんとあるのに、どこか対等で理想的ですよね。その二人の関係がよく現れているのが、三者面談のシーン。アキが先生にキレて、それを見たハツキが“お母さんらしい”って誇らしく思うところが私、大好きで。ふつう、母親が外でキレたりしたら子供は恥ずかしいでしょ? でもハツキは、お母さんはお母さんらしくいてくれることが一番だってわかっているんです。ヤグのことも、私はアキのように彼のすべてを受けいれることはできないけれど、自由な心の持ち主に惹かれる気持ちはよくわかる。はちゃめちゃでもあんなふうに生きていけたらすごく楽しいだろうし、描かれている家族の関係もとても羨ましいですね。

とはいえ、たまには立ち止まって考えることも必要。そうやって自分をいい方向に導かないと、ワガママになりすぎちゃうから。『愛する言葉』は、そういうことに気づかせてくれる本です」

同書は、芸術家・岡本太郎とその妻・敏子の言葉を抜き出した、愛のメッセージ集。それぞれの、相手に対する想いや恋愛観が綴られている。

「この本のいいところって、空いた時間にちょこっとずつ読めることだと思うんですよ。そうするとなぜかその時の自分に必要な言葉が見つかったりする。たとえば、「自分は自分で立っていること。そうでないと、いつまでたってもその恋愛はむなしいままね」という言葉は、私がずっと思っていたこと。それが本を開いたら、言葉になって飛び込んできた。もっともだなと思いますし、目につくと不意にはっとしたりもするんですよね。

全体を通して、敏子さんが太郎さんを心からかわいいって思っている、その愛情が溢れているのも素敵だなと思います。相手のために何かしてあげたい、太郎さんをもっともっと輝かせてあげたいと思っているのに、それでいて“自分が相手を好きならそれでいい”と言っている。なかなかそんなふうに、シンプルに考えを終わらせることはできないと思うんですよ。普通は、相手の気持ちはどうだろうって余分なことをいろいろと考えちゃうし、私はまだそこにはたどりつけない。だけど、そうなりたいと思う。そんなふうに不意の言葉にはっとさせられるんです」

 そして3冊目の『ブッダ』は、壮大なスケールで“愛”を描いた手塚治虫のコミック。麻生さんが手塚作品にハマるきっかけとなった、そしてマンガ好きになった原点となる作品だという。

「とにかく、1巻の冒頭にあったうさぎの話がすごく強烈で。あれだけは何年読み返していなくても忘れられません。その印象が強すぎて、『ブッダ』が一番好きなのかも。私、もともと動物が死ぬ描写とか、弱肉強食の世界ってとても苦手なんですけど、『ブッダ』は行き倒れていた人のためにうさぎが自ら火に飛び込んで、自分を犠牲にして食べさせるっていう話から始まっているでしょう。初めて読んだのは10代の頃だったし、そんなふうに自分の身を犠牲にして人を助ける生き方なんて頭になかったから、なおさら衝撃を受けました。それでも何度も読み返しちゃうんですよね。それに、落ち込んでいるときに読むとすごくイイんです。

私はとても心配性で、落ち込むときはとことん落ち込むんですけど、そういうときに心を切り替えるためのものが必要で。そのひとつが『ブッダ』なんです。壮大で難しいところもあるお話だけど、ブラックジャックが突然出てきたり、けっこう笑える場面もたくさんある。そういうのにほわっとしたり、ブッダの言葉に心が洗われたりして、別世界に没頭できるのがいいんだと思います」

取材・文=立花もも

 

麻生久美子さんのトクベツな3冊

『グッモーエビアン!』

吉川トリコ/新潮社

私の家族は、ちょっと変わっている。元パンクスで現役未婚、自称「永遠の24歳」のお母さんと、万年バンドマンで血の繋がっていないお父さん、そして15 歳の私、はつき。うちのルールはただひとつ「おもしろければ、いーじゃん」。ロックンロール至上主義な生活は、面倒だし貧乏で常識なんて通用しない。でも その普通じゃない幸せを、私はちょっと気に入っている。家族小説の新たな傑作。

『愛する言葉』

岡本太郎、岡本敏子、平野暁臣/イースト・プレス

天才芸術家・岡本太郎とそのパートナー・岡本敏子が遺した、激しく、純粋な愛のメッセージ。ひとりの男として、女として、生身のままにぶつかり合い、支え合い、創造し、生きたふたりの言葉集。

『ブッダ』

手塚治虫/講談社

仏教の開祖で釈迦族の王子、シッダルタの僧としての生涯を描いた壮大な物語。2004年、2005年に「コミック界のアカデミー賞」と呼ばれるアメリカのアイズナー漫画業界賞最優秀国際作品部門を2度に渡って受賞。発行部数は2000万部を突破し、昨年5月に映画化された。

映画『グッモーエビアン!』

原作:吉川トリコ『グッモーエビアン!』(新潮文庫刊)
監督・脚本:山本透
脚本:鈴木謙一
出演:麻生久美子 大泉洋 三吉彩花 能年玲奈 ほか
2012年12月15日(土)テアトル新宿ほか全国ロードショー

元パンクロッカーの母親と15歳の中学生ハツキ。仲良い二人の生活に、2年間ほど海外放浪をしていた超・自由人のヤグがやってきた。ハツキの本当の父親ではないが、ずっと一緒に暮らしていたヤグ。でも思春期のハツキは自由を愛する二人にイライラしてしまう。そんな中、親友が突然転校してしまったり、自分の進路にある決断をするハツキはヤグの過去やアキの本当の気持ちを知ることになる。家族の数だけ、家族の形があっていい―。破天荒一家が織り成す、新世代の家族ムービーの誕生!
(C)2012『グッモーエビアン!』製作委員会

 

3 SPECIAL BOOKS」10月からスタートした、Honya Club「ほんらぶ」キャンペーンのスペシャルサイト「3 SPECIAL BOOKS」。「トクベツな3冊」を通じて人と本がつながる、本好きのためのコミュニティだ。こちらでも、万城目学さんと、前々回、前回に登場の角田光代さん、冲方丁さんが選んだそれぞれの3冊とコメントを紹介中。ほかにも、麻生久美子さんなど新キュレーターが続々登場し、想いのこもった「トクベツな3冊」を紹介している。一般ユーザーもそれぞれの「トクベツな」本を登録可能。「本、Love」な人は見逃せないサイト、「3 SPECIAL BOOKS」にますます注目! みなさんもぜひ、「トクベツな本」を登録してみては?

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