あの「BL界の芥川賞」作品が枠を超えて一般文庫に!

BL

更新日:2012/11/30

 かつてダ・ヴィンチ本誌でも「BL界の芥川賞」と称された名作が、ついにBLの枠を超えて登場した。この秋、講談社文庫から発売された『箱の中』は、2006年に刊行された木原音瀬の『箱の中』 と『檻の外』(草間さかえ:イラスト/蒼竜社)の表題作を1冊にまとめたもの。

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 90年代後半から、数々の名作を残してきた彼女。BL界では木原音瀬を知らない人などいないのではと言われるほど、人気、実力ともにトップクラスの人物だ。あの三浦しをんも絶賛するほどで、読者を物語にぐいぐい引き込んでいく力は目を見張るものがある。

 そんな彼女の作品は、冴えないサラリーマンや高校生が主人公のものが多い。彼らはイケメンでモテモテなんてことは一切なく、どちらかというと地味で平凡な人たちばかりだ。しかし、リストラされたり記憶喪失になった挙句、狂ったほどの愛情を向ける人たちと出会ったり、自らがそんな愛情に翻弄されていくことで、今まで歩いてきた平穏な道は崩れ去る。そこから、彼らの人生は大きく狂いだすのだ。

 それはこの『箱の中』も同じ。

 主人公は、痴漢の冤罪で実刑判決を受け、刑務所に入ることになってしまった堂野。学生時代は皆勤賞、卒業後も市役所に勤める真面目を絵に書いたような彼だったが、刑務所に収容されたことでだんだんと精神を蝕まれていく。そんな時、彼を救ってくれたのが同房の喜多川だった。初めは無愛想で恐怖の対象でしかなかったが、風邪をひいたときに看病してくれたり、いろいろと世話を焼いてくれる彼の優しさに救われていく。母親に請われるままお金を渡し、あげくに殺人までしてしまった喜多川。でも、外の生活よりも刑務所の中の生活のほうがいいと言うのだ。そして、堂野はそんな彼の生い立ちや、子供のように無垢な反応から目が離せなくなる。自分が力になってあげたいと思うようになるのだ。刑務所の中で出会った2人は、その中でだけ、収容されている間だけ寄り添って生きる。

 しかし、喜多川に請われるままにキスをし、恋人の真似事を続けたが、堂野はやはり恋愛対象として喜多川を好きなわけではなかった。だから、先に出所した堂野は喜多川に行方も告げず、彼の出所日にも会いには行かなかった。

 「痛い」「切ない」という声が多く上がる彼女の作品だが、今作でもその魅力は存分に発揮されている。苦しくなるほど真っ直ぐな喜多川の愛。彼らの運命が再び重なり合うときは来るのか?

 今までBLと言えば、腐女子と呼ばれる一部の人たちが楽しむもので、どちらかというと公にされない影の存在だった。皆さんの中にも、やはり「BLだから」という理由で敬遠していた人もいるだろう。しかし、この作品はファンタジー的な腐女子の願望や夢を描くキレイなBLではない。「愛とは何か」という普遍的な命題を突きつける、強烈な一作だ。本当の「愛」を知らないのは誰か? ぜひ一度、読んでみて欲しい。