英国の封建社会の中で「女性の自立」と 「真実の愛」を勝ち取った『ジェーン・エア』とは?

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更新日:2013/8/13

依存する女=都合のいい女。
男たちが追いかけるのは、自分の世界を持つ“自立した女”

 「媚びる女」は、昔から同性の受けが悪い。かつて「ぶりっこバッシング」があったが、依存する女はどうも女の心をざわつかせる。逆に女に不動の人気なのは「自立した大人の女」。いまどきのタレントでいえば天海祐希のような「男前」タイプだろう。媚びないことの凛とした強さと美しさを女は好み、女性誌もかわいさの中に「男前」「かっこいい」「辛口」な風味を折り込む。恋愛論では「男の言うことばかり聞く女は<都合のいい女>にされるが、自分の世界を持つ自立した女を男たちは追いたくなる」ともあって、いまどきの女子にとって、「自立した女」は女磨きの必須目標といったところ。

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 ところで、今でこそ「自立した女」は、「媚びずに自分らしく生きる女」といったライトな解釈で流通しているけれど、かつて女性が「自立」の道を選ぶことは相当タフなことだった。たとえば森まゆみの『断髪のモダンガール 42人の大正快女伝』(文藝春秋)には、モダンガールの象徴ともいえる「断髪」は、大正時代の社会通念の中では「女をやめる」にも等しい行為だったとある。大正時代といえば、デモクラシーや個人の自由が謳歌され、「婦人公論」の創刊など女性解放も叫ばれはじめた時代だが、一般的にはまだまだ封建的で、断髪には姦通の報いだとか未亡人だとか負のイメージが強かったらしい。そんな中であえて断髪を選ぶのは、社会通念をひっくり返し、男性と肩を並べて自立して生きることの決意表明であり武装に近い。平塚らいてう、与謝野晶子、望月百合子などさまざまな女性が登場するが、総じてタフでアグレッシブ、洋行や恋愛遍歴など経歴多彩で、強欲な快女っぷりは、今どき女子の手本としてはやや人生盛り過ぎか。ただ注目なのは、彼女たちの多くが新聞記者や文筆家、教師などの先端的な「職業婦人」であったことだろう。つまり彼女たちは自ら働いて稼いでいたわけで、中にはそのお金でダメ夫をはじめ家族を養う強者もいた。この「自ら稼ぐ」という行為、実は「自立」の真理に深く関係している。

 身も蓋もない話だが、実際「自立」には「お金」が必要だ。精神的な自立でもOKとか、きれいごとをいったところで、誰かに経済的に依存していたのでは限界がある。「自分で“カネ”を稼ぐということは、自由を手に入れるということだった」と、人気漫画家・西原理恵子はエッセイ『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(角川書店)に書いているが、これぞリアル。自由は有料なのだ。考えてみれば、自立した女を実現している女の多くは「働く女」なわけで、当たり前だが、自分自身を養えるから自分の足で立つ(=自立)ことができる。それで何をしようが、たとえダメ男を育てようがOKなのだ。

英国の封建社会の中で「女性の自立」と
「真実の愛」を勝ち取った『ジェーン・エア』とは?

さて、イギリスの女流作家、シャーロット・ブロンテが発表した『ジェーン・エア』も、まさに封建的社会の中での女の「自立」をテーマにした名作だ。小説が発表された1847年当時、男女平等意識や反骨精神をもった主人公・ジェーンの登場は大きなセンセーションを巻き起こしたという。その新しい女性像は時代を超えて女性の支持を集め続け、これまで何度も映像化や舞台化されているが、このたび最新版である劇場版『ジェーン・エア』(2012年6月公開)がDVD化されることになった。全編がまるで美しい四季を描いた風景画あるいは静物画のようでありながら、重奏低音のように流れる静かでほの暗い緊張感。セリフは少ないが、だからこそ主人公・ジェーンの「なにくそ」的な強烈な思いがあふれでる一瞬が鮮やかに心に残る。

 たとえば、「女性も男性のように活動できたらいいのに。あの地平線が女性の限界とは思いたくありません。もっと力があれば克服できるのに」というセリフ。幼くして両親を亡くし、裕福だが愛情のない叔母に無理矢理預けられた寄宿学校で、理不尽な扱いにもメゲずに教師にまで上り詰め、さらに自ら名家の家庭教師の職を得て「外」への道を切り開いたジェーン。家庭教師として充実した日々を過ごしているはずの彼女がふとした瞬間にもらした一言に、「強くなりたい。外にいきたい」と時代に抗う闘争心がギラリと輝く。

 その後、気難しい屋敷の主人ロチェスター氏とジェーンは心の交流を深め、彼女の情熱は「外の社会」ではなく「愛」へと注がれる。身分の違いを超えて結婚を申し込まれ、幸せの絶頂を味わうジェーンは普通の女のように愛らしい。だが、彼が屋敷の隠し部屋に「妻」を幽閉していたことが発覚し、運命は急転直下。突然の別れにも毅然としたジェーンに対し、「なぜ泣きわめかない?」と問いかける無神経な甘えたダメ男に、キッとジェーンが放ったセリフが、これまた辛辣だ。
 
「私に美貌と財産があれば、別れが辛いのはあなたよ」
 

 男をなじることなく尊厳を守って去ったジェーン。一人突き進む荒野で男には見せなかった涙を流すのは、自立した女でいることの代償なのかも。なお、その後のジェーンは行方不明だった親族の遺産を継いで人生大逆転し、「金も身分もある女」になる。勝ち組となった彼女がその後に辿った運命は見てのお楽しみにするとして、注目なのは最終的に「金」が彼女の真の「自立」をバックアップしたという事実。まさに真理の発動。あたかも彼女の意志の力が「金」をも引き寄せた勢いすらする物語だが、時代を越え女の自立心を刺激し続けているのもまた、間違いない事実だ。