いま、父親がいない!? ヱヴァとONE PIECEの意外な共通点

マンガ

更新日:2012/12/21

 現在、大ヒット公開中の映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』と『ONE PIECE FILM Z ワンピース フィルム ゼット』。趣きやストーリーは当然のこと、ファン層もまったく違うと思えるこの2作品だが、じつは意外な共通点があるという。それは“父性”がテーマになっている、という点だ。

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 「エヴァはまだしも、『ONE PIECE』が父性の物語?」。このように首を傾げる人も多いだろう。しかし、「海賊は心理学的に父性を象徴する」と書くのは、先日発売された『父親はどこへ消えたか 映画で語る現代心理分析』(樺沢紫苑/学芸みらい社)だ。たとえば、舞台『ピーター・パン』は、フック船長とウェンディの父親は同じ役者が一人二役するのが“お約束”であるように、海賊には父親的イメージがあるらしい。それゆえ、「『ONE PIECE』の大ブームは、「海賊は父性の象徴」だから、父性喪失の現代、非常に共感しやすい作品だからではないのか」というのだ。

 さらに、2012年に公開された『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』や『ヒューゴの不思議な発明』、『アメイジング・スパイダーマン』、『TIME/タイム』、『ももへの手紙』、『虹色ほたる~永遠の夏休み~』といった作品は、すべて亡くなった父に関する話、あるいは父の死の原因や理由を追求する物語。『幸せへのキセキ』、『ファミリー・ツリー』がダメな父親が親子関係を修復させる物語だったことを考えると、「父親探し」、「父性回復」をテーマにした作品がこれほどまでに製作されているのは、仕事ばかりで家庭を顧みない父親や、存在感の希薄な弱い父親といった、深刻化する「父性不在」の問題が反映されているのではないかと指摘している。

 また、本書では日本のアニメの変遷も辿っているのだが、1960年代は『巨人の星』などの「頑固親父の時代」。その後、1970~80年代は「ララァという母性的なキャラクターを通して、仲間の大切さと殺し合うことの無意味さ」を打ち出した『機動戦士ガンダム』をはじめ、『銀河鉄道999』や『うる星やつら』『風の谷のナウシカ』などのような「母性アニメの時代」に突入。しかし、90年代に『新世紀エヴァンゲリオン』が登場し、「父性アニメの時代」に突入。それまで母性アニメを主流にしてきたジブリも、『ゲド戦記』で「父親殺し」を描き、『崖の上のポニョ』では「宗介が父性を発揮し、大人へと成長するばかりでなく、人類の父『アダム』になってしまう」といった“父性モノ”を手がけるようになったという。

 ちなみに、悪しき父親のパターンは、「強すぎる父親」、「弱い父親」、「普通の父親」の3つだそう。『新世紀エヴァンゲリオン』の碇ゲンドウは強すぎ、『崖の上のポニョ』のポニョの父親・フジモトは弱すぎ、『機動戦士ガンダム』のアムロの父親テム・レイは普通すぎるという分類だ。「普通がダメって、どうすればいいの?」と悩む人もいるかもしれないが、その場合は「個性的な父親」を思い浮かべるといいらしい。『釣りバカ日誌』のハマちゃんや、『クッキングパパ』の荒岩一味のような「一芸に秀でる特技や長所」があり、「お父さんって凄い」と思わせることが父性につながるそうだ。

 最近では、話題を呼んでいる湊かなえの新作『母性』(新潮社)や、新聞書評でも各紙が絶賛した赤坂真理の長編小説『東京プリズン』(河出書房新社)など、最近は母娘の関係をテーマにした作品も増えているが、本書がテーマにする“父性不在”は、母娘問題の裏返しともいえる。母性が子供の欲求を受け止め満たすのに対して、父性は「我慢や規範を教え、責任主体とし、理想を示すもの」とされているそうだが、しかし、男が父性、女が母性を担うものではない。「女性にも父性的な部分がある」というから、シングルマザーでも、父性的な「厳しさ」、母性的な「優しさ」を使い分ければいいのだ。

 しかし、母性的なキャラのララァと父性的なハマちゃんを両立するのは……やはり子育てとは難しいものだと思わずにいられない。