『3月のライオン』ダッフルコートが話題 マンガとファッションの深い関係

マンガ

更新日:2012/12/21

 『3月のライオン』(羽海野チカ/白泉社)の主人公で、東京の下町に住む17歳のプロ棋士・桐山 零。彼が作中で着ているダッフルコートが、BEAMSとのコラボで実際に商品化されることになり、あちこちで話題を呼んでいる。それに、他にも『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(岡田麿里/メディアファクトリー)でじんたんが着ていたTシャツや『東のエデン』(神山健治/メディアファクトリー)で滝沢が着ていたモッズコート、『攻殻機動隊』(士郎正宗/講談社)の草薙素子が愛用しているコートやライダースジャケットなど、多くの作品がコラボファッションを販売しているのだ。

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 普段マンガを読む上ではあまり意識されないのに、こんなにコラボファッションが注目されているのはちょっと不思議な感じがする。でも、『まんがファッション』(竹村真奈/パイインターナショナル)を読むと、実はマンガにおけるファッションはすごく重要な役割を果たしているということがよくわかるのだ。

 この本では、零のダッフルコートで話題になっている羽海野チカはもちろん、一条ゆかりや安野モヨコ、いくえみ 綾といった少女マンガを代表する作家たちがそのことについて熱く語っている。この中でどの作家も口を揃えて言うのは「そのキャラに合ったファッション」をさせるということ。マンガで描かれるファッションは、そのキャラクターの生い立ちだとか性格、その時の体調や精神状態も含めて選ばれているのだ。

 例えば、一条ゆかりの作品でオペラを舞台にした『プライド』(集英社)。ここでは、小さい頃からブランドものを着て育ったスーパーお嬢様の麻見史緒と貧しい苦学生の緑川 萌が登場するのだが、やはり彼女たちの服にもこだわりがある。史緒の場合は、ブランド色が強くて仕立てのいいもの。でも、萌の場合は母親のお下がりでちょっと古い感じだったり、スーパーで売っているシャネルっぽいペラペラな生地のものなど、頑張ってるけど少し野暮ったい感じを意識しているそう。それに、わざと同じ服を着せたり、着まわしさせて貧乏感を演出したりもしてるんだとか。

 同じように、安野モヨコやいくえみ 綾なんかも着まわしさせている。安野モヨコの場合は、キャラの背景をベースにファッションを描くそう。だから、「このくらいの給料だったら、これくらいのかわいい服が買える。だけど、あまりキレイな部屋には住めないよね」など、細かい部分にまで想像を巡らせるんだとか。さらに『働きマン』(講談社)の女性編集者・松方弘子の場合は、実際の編集者から「徹夜で仕事っていう日にシャツは着ない」とか、「ヒールのブーツだと午後は死にそうになる」といったリアルな声も取り入れて描いたそう。

 また、水城せとなに至っては、そのキャラがその服を着た理由まで考えるというのだ。普段は、タートルネックのように頭からすぽっと被って着るタイプの服をよく着ていたとしても、頭に怪我をしているシーンでは前ボタンの服を着せる。そんな細かいことにまでこだわって描かれていたのかと思うと、キャラクターのファッションに対する見方もずいぶん変わってくるだろう。

 そして、流行りに流されないということも大事なポイント。雑誌を参考にしていると他の作家さんとバッティングしてしまうこともあるし、流行のファッションを着せると後で見たときに古臭くなってしまうんだとか。そんな問題を解決するため、羽海野チカや陸奥A子は自らファッションもデザインしているというのだ。マンガを描けるだけでなく、ファッションのデザインまでできるなんてすごい! でも、どっちも大好きな人にとっては夢のような仕事かも。

 マンガとコラボした服といえば、キャラがプリントされているものだったり、どこかコスプレっぽい違和感があって普段の服装には取り入れづらいと思っている人もいるかもしれない。でも、この本では普通の人が普通に着ていそうなものがたくさん紹介されている。これなら気軽に真似できそうだし、普段の自分の服装にも取り入れてみれば憧れのあのキャラに1歩近づけるかもしれない。

 また、クリスマスプレゼントとして家族や恋人に服をプレゼントしようと考えているあなた。その人の好みだけでなく、生活スタイルやパーソナルカラーといったその人の背景なども参考にして選んでみては?