マンガ好きは必ず読んでいる 『海街diary』が描く鎌倉の魅力とは?

更新日:2018/4/19

 海と山に囲まれた、風光明媚な観光地として知られる鎌倉。「古都鎌倉」とも呼ばれるこの土地には、寺や神社など、歴史的な建造物も数多く残っている。都心からもそう遠くない場所にあるのに、しっとり落ち着いた空気があるため、「この街に住みたい!」という人も後を絶たないらしい。

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そんな鎌倉を舞台にした作品は数多く、『とめはねっ! 鈴里高校書道部』(河合克敏/小学館)や『青い花』(志村貴子/太田出版)、『鎌倉ものがたり』(西岸良平/双葉社)など、マンガの舞台として扱われることも多い。なかでも鎌倉の魅力がたっぷり詰まっているのが、12月10日に5巻が発売された『海街diary』(吉田秋生/小学館)。第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した本作は、「このマンガを読め!2008」で第1位に、「このマンガがすごい!2008 オンナ編」では第2位、「マンガ大賞2008」でも第3位にランクインするなど、マンガ好きから高評価を得ている作品だ。

 この物語は、鎌倉に住む看護師の幸、信用金庫に勤めるOLの佳乃、スポーツ用品店の店員である千佳の3姉妹が、腹違いの妹である中学1年生の少女・すずを引き取って一緒に鎌倉で生活していくことから始まる。マンガの中でも実際に観光名所になっている場所がたくさん出てくるので、すずの視点で舞台となった鎌倉を案内する『すずちゃんの鎌倉さんぽ』(海街オクトパス:著, 吉田秋生:監修/小学館)というガイドブックまで発売されているほど。しかし、この『海街diary』は、単に鎌倉を背景の絵として一部を切り取っているというわけではない。街の雰囲気や伝統行事、イベントごとなども絡めて物語が進んでいくのだ。

 たとえば、1巻の表紙にも使われている江ノ電こと江ノ島電鉄。江ノ電に乗りながら通学・通勤したり、友だちと一緒に電車に乗ったり。特になんということのないシーンでも、懐かしさをたたえる江ノ電の風情も相まって、いかにそれが暮らしに寄り添っているかが伝わってくる。

 また、サッカーのクラブチームに所属しているすずが、毎日自主トレで走る極楽寺坂切り通し。作中で切り通しと呼ばれるこの長い坂は、すずの家に続く道なのだが、そこを姉の幸と2人でたわいもない話をしながら登ったり、雨の中、考え事をしながら1人で駆け登ったりする。気持ちが落ち込んだときには、いつもと同じ道でも違った景色に見えることがあるが、そんな心の変化も、この坂を使って表現されているのだ。

 さらに、すずが所属するサッカークラブのメンバーがケガで入院したときに、チームメイトと紅葉の名所である紅葉ヶ谷に行くシーンがある。この紅葉ヶ谷を登っていくと、さらにたくさんの真っ赤な紅葉が一面に広がる獅子舞と呼ばれる場所が。そこで、紅葉の絨毯に寝転びながらケガをしたメンバーに思いを馳せるのだ。……青春のまぶしさが、より強く印象づけられる場面である。

 そして、次女の佳乃がサーフショップで働くサーファーの少年・朋章と別れた稲村ヶ崎の海辺。この場所で朋章とすずが話をしているが、なんと姉の幸も3年付き合った彼氏とここで別れたりしている。同じ場所でみんなのエピソードが積み重なっていく様を見ていると、本当に彼らがその場所で生きていることを感じさせられる。

 他にも、いろんなお面をかぶった人が街を歩く面掛行列や、古くから漁村の村として栄えた腰越の漁港から漁船に乗って眺める花火大会の模様など、イベントごとも満載。まるで、自分も鎌倉に住んでいるかのような感覚を味わうことができるのだ。

 観光地としてではなく、何気ない日常の中に溶け込んだ風景。ここに、本当の鎌倉の魅力がある。『海街diary』を読めば、鎌倉に住みたくなるのは必至。もちろん、観光目的の人にも十二分に楽しめるので、新年に鎌倉歩きを予定されている人も、ぜひ、手にとってみて。