最新作『機動戦士ガンダムUC』にみる、根強いガンダム人気の秘密

更新日:2013/1/10

 『終戦のローレライ』(講談社)や『亡国のイージス』(講談社)の著者などで知られる福井晴敏が原作小説を執筆した『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』(角川書店)。2010年からオリジナルブルーレイ・DVDとしてアニメ化がスタートし、年間1~2回のペースでリリースが続いている。

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シリーズは、すでに完結した原作小説全10巻の内容を全7話でまとめる予定となっており、現在の最新版は2012年6月に発売された『機動戦士ガンダムUC5』(バンダイビジュアル)。残るは2013年3月発売の『UC6』と、その後に予定される最終巻のみとなった。物語は「ガンダム」シリーズの王道である「宇宙に始まり地球に降りて再び宇宙へ」のパターンを踏襲し、舞台は再び宇宙へ。クライマックスに向け、さらなる盛り上がりが予想されている。

 1979年に第一作目の『機動戦士ガンダム』がテレビ放送を開始して以来、すでに30年以上の年月が過ぎているが、ガンダム人気は今も衰えを感じさせないものがある。最新の『機動戦士ガンダムUC5』は発売初週でDVD4万6000枚、ブルーレイは9万9000枚を売り上げた。

 「ガンダム」シリーズは、近年では「ファーストガンダム」と呼ばれることが多くなった最初の『機動戦士ガンダム』をベースに、『機動戦士Zガンダム』などの続編や、スピンオフ的作品、またはゲームの登場によって世界観を拡大させていった。さらに、『機動戦士ガンダムSEED』等、当初と異なる別の世界設定での作品によって新世代のファンを獲得するなどして、現在も根強い人気を維持している。

 しかし、『ガンダムUC』については、特に初期からのガンダムファンである30代、40代の人気が高いという。その要因のひとつとして、作者の福井晴敏自身が若かりし頃にガンダムをテレビで見て育った同世代であることは無視できない。特に『ガンダムUC』は、ファーストガンダムから劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に至る「宇宙世紀」と同じ時間軸をともにする正統な続編であるため、細部にいたるまで旧作のファンを意識した内容になっている。

 たとえば、ヒロインのオードリー・バーンは、ファーストガンダムでは赤ん坊として、『機動戦士Zガンダム』以降は少女の姿で登場している。シリーズの軸をなす地球連邦軍とジオン公国軍との宇宙独立戦争において、ジオン軍を指揮するザビ家の令嬢ミネバ・ザビがその素性だ。また、ファーストガンダムの主人公であるアムロ・レイこそ『逆襲のシャア』以降行方不明という設定ゆえ写真でしか登場しないが、アムロの上官にあたるブライト・ノアをはじめとする旧作の登場人物が随所に現れる。さらには、同じく行方不明とされているアムロの宿敵シャア・アズナブルに代わり、“シャアの再来”と噂されるフル・フロンタルという人物が主人公のバナージに立ち塞がる。

 セリフや物語の展開、メカニックなどにおいても、随所にファーストガンダムを思い起こさせるシーンがあり、昔ながらのファンを大いに喜ばせている。もちろん、ガンダム世界における重要なポイントである「人の革新たる新しい人=ニュータイプ」の概念については言わずもがなだ。

 福井晴敏が作る無骨な男の世界を突き進むストーリーの魅力もさることながら、こうした「親から子へ、子から孫へ」的に旧作の余韻が丁寧に引き継がれていることが、長い間人気を支え続けている要素のひとつなのかもしれない。

 ちなみに、『ガンダムUC』は映像作品としてのクオリティーは高いものの、スピーディーな進行のために必要最低限の設定や背景以外は割愛されているところが多々ある。詳細な情報や描写を欲するならば、原作小説を読むことで奥行きある世界観が鮮明に見えてくるはずだ。この冬に読破すれば、3月からのクライマックスを楽しむための良きガイドになるだろう。

文=キビタキビオ