又吉も大好き「国語便覧」の楽しみ方

文芸・カルチャー

更新日:2018/4/3

 読書芸人として大ブレイク中のピース・又吉直樹。古典から現代のものまで、さまざまな作品を紹介する彼の“本の目利き”に、全幅の信頼を寄せる人も多いだろう。そんな又吉が、近代文学を読み始めたのは、なんと国語便覧がきっかけだという。

 国語便覧といえば、学生時代に国語の副読本として親しんだ人も多いはず。又吉もそのひとりで、深夜番組『ショナイの話』でも国語便覧への愛を語り、ブログでは「国語便覧は内容の濃さと比べて値段が安過ぎる物の日本代表です」「国語便覧、広辞苑、地図帳は最強」とつづっているほど。しかし、なかには「冊子が重たすぎて、机に置きっ放しにしていた」「まじめに読んだことがない」という人もいるのでは? そこで、今回はそんな大人のために、国語便覧を紹介したい。

 今回、読んでみるのは『クリアカラー国語便覧』(武久 堅:監修、青木五郎:監修、坪内稔典:監修、浜本純逸:監修、数研出版)。まずは古文からスタートするのだが、貴族の服装の解説や鎧の部位別名称、弓矢の違いも写真付きで事細かに書かれており、歴史モノのマンガを描きたい人にはうってつけの資料にもなりそう。『小倉百人一首』のページでは、たとえば「有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし」という美しい歌も「そっけなかった恋人に対する恨み」となんとも主題が簡潔にまとめられており、便利。よくよく読むと恨み率が高くて、大人になったいまは大いに共感できること必至だ。さらに、作品紹介のキャッチコピーも秀逸で、『土佐日記』は「女性のふりをした男性の日記」、『蜻蛉日記』は「男の訪れを待つしかなかった女の絶唱」。学生時代にピンとこなかったのが不思議なくらい、興味がくすぐられっぱなしになる。

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 しかし、なんといっても勉強になるのが、現代文のコーナー。明治~大正~昭和の文学の流れが数ページで把握できてしまうのは、ありがたいの一言。その上、平成文学まで解説されており、山田詠美や江國香織、穂村 弘、枡野浩一といった現代作家の名前も。「え、最近の作家じゃん!」とツッコんでしまったあなた。そう、歳もとるはずです。

 もちろん、作家解説も充実。たとえば夏目漱石なら、『我輩は猫である』『坊っちゃん』といった明るい作風から後期の作品では暗く重いものになったのか、そのいきさつとなった修善寺の大患について解説していたり、『草枕』に登場する那美のモデルとなった女性の写真まで掲載。『こころ』をピックアップしたコーナーでは、上・中・下に分けてしっかり説明しているが、先生とお嬢さん、そしてKの関係についても「他人が欲しがると、自分も欲しくなる」という“欲望の三角形”論を用いて図入りで紹介している。このほかにも、芥川龍之介の失恋話や、川端康成と太宰 治のバトル、中島 敦が継母に送った悲しい葉書など、文学史をもっとよく知りたくなるエピソードが盛りだくさんだ。

 また、もっともうれしいのは、多くの作品解説が短いこと。安部公房の『砂の女』なら、中学教師が穴に閉じ込められて女性に出会うことに触れ、文章を「穴の中で生きることに新しい意味を見出していく」と締めている。「え? 穴生活に新しい意味ってどういうこと?」と疑問が噴出してしまうが、それゆえ本を手にとって読みたくなるというもの。国語便覧というのは、若者たちに読書の歓びを伝えるべく、あの手この手とたくさんきっかけを仕掛けていてくれたのかもしれない。

 「どうして若いうちにもっと勉強しておかなかったんだろう」と言うのは、よくある台詞。でも、経験を積み上げたからこそ、知識への欲求が高まったともいえるはず。この年末年始、実家に帰省した人は、押し入れをひっくり返して、ぜひ国語便覧を発掘してみてはいかがだろう。2013年、読みたい本が見つけられるかもしれませんよ。