サザエさんは一度、遠くにお嫁に行っていた!?

マンガ

更新日:2019/3/9

 1969年から現在まで40年以上にわたって放映されている国民的テレビアニメ『サザエさん』。原作のマンガは1974年に終了しているが、それでも連載話数は6000を超える。

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 そのマンガ版『サザエさん』(長谷川町子/朝日出版社)からよりすぐった話をまとめた『よりぬきサザエさん』(長谷川町子/朝日出版社)が復刊された。作者である長谷川町子自身が選んだというだけあって、一話一話味わいのある作品ばかりで、何十年もたった今でも十分に笑い、なごみ、楽しむことができる。

 しかも、注目したいのが、巻末についた特典ページ。サザエさん好きでもあまり知らないだろうと思われるコアなネタが満載なのだ。

 たとえば1巻にはサザエさんの「さまざまな『はじまり』と『終わり』」と題して、1946年4月22日、福岡の地方新聞『夕刊フクニチ』ではじめて連載を開始したとき、『夕刊フクニチ』での最終回、そして『朝日新聞』にうつったときの1回目、実質的な最終回など、節目にあたる作品をピックアップしているのだが、これが興味深い。  

 連載開始の時は1コマ目でフネが読者に向かって始まりのあいさつをし、カツオとワカメを紹介しているのだが、主役のサザエさんがいない。3コマ目でフネに呼ばれてようやく登場するのだが、サザエさんはなんと食べ物を片手に口をモグモグさせたまま。その後、読者の前にいると気づき、あわててそこから逃げ出してしまうのだ。   

 テレビアニメでも、1990年代まではサザエさんが饅頭を「ングング」とのどに詰まらせるシーンがエンディングで放映されていたが、サザエさんのそそっかしさと食いしん坊ぶりは最初からのコンセプトだったということがよくわかる。

 また、『夕刊フクニチ』での最終回では、突如、サザエさんの結婚シーンがでてくる。といっても、相手のマスオさんは一切出てこず、そもそも結婚話がもちあがっていたわけでもない。突然、白無垢のサザエさんが黒塗りの車に乗り込み去っていくシーンが描かれているのだ。おそらく休載のおしらせという意味だと思われるが、マスオさんが入り婿というのが重要な設定のはずの『サザエさん』に、お嫁入りして遠くの街に去っていくようなシーンがあったというのは、驚きのエピソードではないか。

 一方、実質的な最終回となった1974年2月21日の『朝日新聞』では告知はなく、いつもと同じ、サザエさんたちの日常が描かれている。その内容は、学校が「お弁当の日」のため、サザエさんにお弁当をつくってもらったカツオ。登校し、昼休みの時間になるのだが、お弁当を食べるみんなとは別に、中島くんらしき子どもが、自炊をはじめるといったものだった。当時の読者は、まさかこれで終わってしまうなんて、夢にも思わなかったことだろう。

 2巻には『朝日新聞』で掲載された『サザエさん』特集記事が掲載されている。長谷川町子の生の声を読むことができる貴重な資料だが、そのなかには、驚きのエピソードもたくさんつまっている。

 ナミヘイとフネがしばらくは「お父さん」「お母さん」と名無しのままで進んでいたこと。それがある日、読者からの電話で、ふたりの名前を聞かれ、とっさにその名前を思いつきいったこと。また、ノリスケさん家族のモデルが、長谷川町子の妹夫婦であることなどのキャラの根幹に関わる衝撃的な事実も暴露されている。「20年を迎えた『サザエさん』」という特集では「サザエさん一家がひとなみに年をとっていたら」と題して、長谷川町子による年齢を重ねたサザエさん一家の姿が描かれている。これなんかは、ファン必見の絵である。ちなみに、ナミヘイは白髪とシワが増えた、おじいちゃんになっているのだが、頭に生えた1本の毛は健在である。

 他にも3巻には「サザエさんの名人戦見学」や「サザエさんの新聞社見学」といった、長谷川町子による絵つきの臨時記事が掲載されているし、どこを読んでも貴重な情報いっぱいの『よりぬきサザエさん』。年末年始にかけて、ゆっくりと家族で読むには最適の1冊だ。