松田龍平が演じる三浦しをん作品の風変わりな主人公たち

更新日:2013/1/7

 2011年に実写映画化された、直木賞作家・三浦しをんの小説「まほろ駅前多田便利軒」に続き、続編の『まほろ駅前番外地』が、1月11日より、テレビ東京系ドラマ24でドラマ化することが決定した。映画に続きキャストは、多田便利軒を営む多田啓介に瑛太、居候兼バイトの行天春彦は松田龍平。4月に公開される三浦しをん原作の映画『舟を編む』でも、松田は、主人公である編集者・馬締光也を演じる。『ダ・ヴィンチ』2月号では、三浦作品のファンだという松田龍平のインタビューを掲載している。

advertisement

 ――「行天は一見、変な人間だけど、言っていることは普通なんだって気がついたんです。一方、多田は真面目で、常識的に見えるけど、実はすごく変かもって(笑)。その変なところに自分で歯止めをかけていて、それが何かの拍子で一気に出てしまうタイプなのかな、と。行天はたぶん、すごく普通な人だと思うんです。自分が普通すぎることもよく知っていて、そこに弱さやつまらなさを感じているから、よくわからない行動をするのかもしれないなって」
 その行動のひとつに、“やろうよ。それが多田便利軒でしょ”がある。多田や周りの人々をぶんぶん振り回していく、一見、無謀なアクション。だが松田さんは、そこにどこか自己犠牲のようなものを感じるという。
「人って何か行動を起こす時、やっぱり不安になると思うんです。失敗したらどうしよう、嫌われたらどうしようって。変なことが起こるのは嫌だから、気づかないふりをして、傷つくことから自分を守ろうとする。行天の場合は、自分がどうなっても、どう思われてもいいという、自己犠牲みたいなところから行動を起こしているのかなって。そして、そこでは、やっぱり彼も傷ついている。けれど、傷ついた先にある、もっといいものを知っていると思う」
 それは松田さんが、映画『舟を編む』で演じ、捉えていった馬締にもどこか通じている。
「物語の冒頭で、営業部に配属されていた馬締は、全然営業ができなくて、上司に絞られて、その暗さを抱えて、家に帰ったら本を読み続けていた。それは彼にとって逃げ場になっていたと思うんです。だから実のところ、本当に本が好きだったのかどうかは、わからないですよね」
“馬締は、言葉、本、辞書――心から好きなものを持って、それに没頭している幸せな人”という、こちらからの投げかけに、松田さんから、ぽーんと返ってきた言葉だった。
「たとえ好きだったとしても、それだけで人や行動は成立していかない。好きなだけなら、ずっとひとりで本を読んで生きていけばいいので。好きだから、ということじゃなく、そこに止まっている自分ではない自分を見てみたい、もっと選択肢を広げたいということを、馬締は考えていたんだと思う」
 辞書づくりは自分ひとりではできないということに気づき、苦心し、傷つきながら、少しずつコミュニケーションがとれるようになり、そこで彼は、言葉の本当の意味を知っていく。
「15年にわたるストーリーの間で起きていく、少しずつの変化を自分の中から引き出していくのは、本当に面白かった。馬締がどんどん進んでいく先に広がる“言葉の海”も」

取材・文=河村道子
(『ダ・ヴィンチ』2月号「三浦しをん大特集」より)