ギア付き自転車に多面式筆箱…80年代のカッコいいモノは謎だらけ

公開日:2013/1/11

 バブル景気に沸いた80年代。夜な夜なトレンディな装いの男女がウォーターフロントでどんちゃん騒ぎ、ジュリアナ東京ではお立ち台でワンレン・ボディコンの女性たちが踊り狂ったそうな……。しかし、バブルを知らない世代にとっては、「ワンレン? なにの練習?」状態。一体どんな世の中だったのかと想像もつかないことばかりだ。この謎深き80年代、じつは子どもたちも、いまから見れば奇妙としか言いようのないモノたちに熱狂していたらしい。

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 それがよくわかるのが、『カッコいいもの80s』(安田 誠:著、ポストメディア編集部:編集/一迅社)という本。「80年代の子どもたちが興奮した“カッコいいもの”大集合!」と銘打たれているのだが、これが珍品のオンパレードなのだ。

 たとえば、「少年用スポーツ車」。カッコいいと謳うほどだからマウンテンバイクやロードバイクの類いかと思いきや、なんともゴッテリと装備がくっついた、まるでロボットのような自転車。ポイントは、トップチューブになぜかオートマ車のようなシフトレバーがついていること。この無駄にしか思えないレバーを巧みに操り、ギアチェンジするのが当時の男子小学生たちにはたまらなかったらしい。ちなみに、自転車の前後にはこれまたデカデカと複数のランプがついており、「派手な音を鳴り響かせる」ような仕様だったとか。各メーカーの商品名も「エレクトロボーイZ」や「ヤングウェイ・モンテカルロ」、「スーパーサリーゼロ」と気合いが入りまくりだ。

 しかし、これで驚いたのがバカだった。文具の世界ではさらに予想の上をいく珍品が登場する。それが「多面式筆箱」だ。名称だけ聞いてもピンとこないと思うが、筆箱がなぜか表も裏からも開けて、かつ中面も開き、さらにはボタンひとつで山なりに鉛筆がシャキーンと立ち上がったり、虫眼鏡が飛び出す機能まで搭載。実用性が行き過ぎているようにしか思えない代物だが、著者は、はじめてその多面式筆箱をクラスメイトからみせられたとき「鼻血が出そうなほど上気」し、「先生が来て、『座れー!』と注意の声が聞こえても、なお興奮し続けたのを覚えています」とつづっているほど。また、缶のペンケースのなかには、ビリヤードができるものもあったそう。もはや、それは筆箱なのだろうか……?

 あと、80年代は清涼飲料水のバリエーションが増えた時期。子どもたちもこぞって飲み比べたというのだが、その中身がすごい。まず、84年に発売された“冒険活劇飲料”の「サスケ」なる飲み物は、「薄いコーラにフルーツフレーバーをプラスしたような感じ」だったらしい。キャッチコピーは「コーラの前を横切る奴」。いやいや笑ってはいけない。なんと糸井重里がコピーライターを務め、CMの音楽は坂本龍一、アートディレクターは横尾忠則だったというのだから、当時としては相当本気の商品だったのだ。ほかにも、原材料に核太ナツメや御種人参、菊といった中国産植物エキスを用いた「維力」(ウィリー)というスポーツ飲料なんてものも。いまではおなじみのサントリーの「烏龍茶」もこの当時に発売されヒットを記録したが、80年代のチビッコ的には「字面だけでもなんだかカッコいい」商品だったようだ。

 これだけに限らず、本書では、芯を次々に出すギミックを持った「ロケットペンシル」や、ミニ四駆、カセットデッキにラジカセ、ミニコンポなんてアイテムといった商品がズラリ。現在の30~40代の人々には懐かしさがきっとこみあげてくるはずだ。

 それにしてもこうして見ていくと、当時のカッコいいものには、自転車や筆箱にさえ近未来感が満ち、ジュースひとつにも未知の味との出会いにあふれていたことがよく伝わってくる。大人たちがバブルに浮かれるなか、子どもたちはまだまだ未来を夢見ていたーー80年代のチビッコたちというのは、そういう意味でとても幸せだったのかもしれない。