じん(自然の敵P)は、芥川賞を獲ることができるのか?

(自然の敵P)

2013/1/15

 1月16日に発表される、第148回芥川龍之介賞・直木三十五賞。候補者のなかには、過去最高年齢である75歳の黒田夏子の作品が芥川賞にノミネートされるなど、その行方に注目が集まっている。しかし、「もっと話題になった作品やもっと人気の作品もあるのに、どうして選ばれないんだろう?」と疑問に思う読者も少なくないはず。たとえば、話題沸騰中の「カゲロウデイズ」シリーズ(じん(自然の敵P)/エンターブレイン)や、『黒子のバスケ』小説版(平林佐和子:著、藤巻忠俊:原作、画/集英社)、アイドルグループNEWSの加藤シゲアキの小説『ピンクとグレー』(角川書店)はたくさん売れているのに、どうして候補にさえ選ばれないのだろうか。そこで今回は、『カゲロウデイズ』を例にして、芥川賞・直木賞がどうやって選ばれるのかを紹介しよう。

 たとえば、「カゲロウデイズ」シリーズについて。著者は、2011年にボーカロイドで制作したオリジナル曲をニコニコ動画にアップし、たちまち大人気となった“ボカロP”・じん(自然の敵P)。彼が描く歌詞世界は「まるで短編小説を読んでいるよう」と評されてきたが、昨年、オリジナル曲を原作にした小説『カゲロウデイズ -in a daze-』『カゲロウデイズII -a headphone actor-』(エンターブレイン)を発表。これが50万部を超えるヒットを記録しているのだ。たとえば、この異例づくめの作品は、果たして芥川賞・直木賞を受賞できないものなのだろうか?

 まず、大前提となる「芥川賞と直木賞の違い」から。よく知られているように、芥川賞は“純文学作品”に、直木賞は“大衆的なエンターテインメント作品”に贈られる賞。だが、これだけでなく、芥川賞はおもに対象期間に新聞や雑誌に発表された短編・中編の小説のなかから候補作が選ばれる。明確な枚数制限はないが、だいたい原稿用紙100~200枚の作品が多いようだ。一方、直木賞も対象期間は同じものの、新聞・雑誌に加え、すでに単行本になっている作品も候補に含まれる。『カゲロウ~』の場合、すでに本として発売されているため、候補としては直木賞狙い、となるだろう。しかし、『カゲロウ~』は書き下ろしで、かつ文庫オリジナルでの発売。過去に文庫書き下ろし作品が受賞した例はなく、難しそう。ちなみに近年は、『別冊文藝春秋』(文藝春秋)に連載→単行本化→直木賞というパターンが多い印象。『別冊文藝春秋』に小説を連載中のピース・又吉直樹のほうが、じん(自然の敵P)より直木賞に近そうだ。

 では、芥川賞はどうだろう? 『カゲロウ~』の作風的に見ても、直木賞よりも芥川賞のほうが可能性はある、ともいえる。たしかに『カゲロウ~』はエンタメ要素も豊富な作品。だが、過去の候補・受賞作を見ていくと、直木賞はファンタジーやSFなどといったジャンルの作品には厳しい印象も。かたや芥川賞は、作風的には何でもアリ。なかにはエンタメ度の強い作品が芥川賞を受賞した事例もあるからだ。

 でも、そもそも芥川賞は、前出の通り「新聞・雑誌に発表」された作品から候補作が選ばれるもの。とくに近年は、『文學界』(文藝春秋)、『新潮』(新潮社)、『群像』(講談社)、『文藝』(河出書房新社)、『すばる』(集英社)という純文学系文芸5誌のいずれかに掲載された作品からほとんどの候補作が選ばれている。だが、昔は同人誌から芥川賞候補が選出されることも少なくなかった。芥川賞が設立されたのは、昭和10年。当時は文芸作品が世に発表される媒体が新聞や雑誌といった紙媒体に限られていたが、いまの時代に照らし合わせれば、Webというメディアは、いわば昭和10年当時の“同人誌”の存在に近い。実際、マンガやライトノベルの世界では、Webや同人誌から次々と活躍する作家が輩出されているように。

 芥川賞が「無名、あるいは新鋭作家」による優秀な作品に贈呈する賞であることを考えれば、じん(自然の敵P)のように、Web上で創作活動をする作家たちが候補に入ってきても、この時代、不思議ではない。何より芥川・直木賞の設立者である菊池寛は、“本が売れない2・8月に本が売れるように”と両賞をつくったというのは有名な話。史上初のボカロPが受賞……話題性十分で菊池もおおいに喜びそうな気もするが、近い将来、いつかそんな日がやってくるかもしれない。