ブームの信長マンガで注目度急上昇中の武将って?

公開日:2013/1/18

 戦国時代はマンガでも人気の舞台。特にここ最近は、ドラマもスタートした『信長のシェフ』(西村ミツル:著、梶川卓郎:著/芳文社)をはじめ、タイムスリップした高校生が信長になってしまう『信長協奏曲』(石井あゆみ/小学館)、信長に仕える“くノ一”を主人公にした4コマ『信長の忍び』(重野なおき/白泉社)など、改めて織田信長を扱う作品がプチブームになっている。

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 そんななか、急激に注目度が上がっているのが森 可成(もり・よしなり)だ。先に挙げた「信長のシェフ」など、いずれの作品でも重要な家臣の一人として活躍している。

 信長の家臣で「森」といったら、多くの人が真っ先に思いつくのが、美少年と伝えられる森 蘭丸だろう。森 可成はその蘭丸の父に当たる人物。信長が家督を継いで尾張を統一する頃から織田家に仕えている古参武将で、「攻めの三佐」というあだ名が付くほどの猛将と伝えられている。信長の信頼も厚かったようで、有名な比叡山焼き討ちの際も、可成の墓があった聖衆来迎寺だけは手を出されなかったほどだ。

 だが、そうした経歴とは裏腹にこれまでの信長モノでは森 可成が活躍することはほとんどなかった。可成自身が織田家が躍進の途上にある1570年に討ち死にしており、森家もその後の豊臣政権、徳川政権でそれほど華々しい活躍を残していないためか、「信長の信頼厚い武将」といわれながら、歴史ドラマ上ではそもそも登場すらしないことも珍しくない。後に天下を統一する羽柴秀吉や家臣団の筆頭格であった柴田勝家、本能寺の変を起こす明智光秀をはじめ、綺羅星の如く有名武将がひしめく織田家を描く上では、地味な人物と扱われることが多かったのだ。

 しかし、有名ということは逆にいえば「もう多くの人が知っている」ということ。歴史マンガが数多くなり、読者の知識量も増してきた現在では、ただ一般的な通説を描くだけでは平凡になってしまう。そのため、歴史マンガでは一般的な戦国観を覆すような物語や人物像をどれだけ提示できるかが重要になってくる。従来は暗愚の将と評価されていた斉藤龍興を隠れた名将として蘇らせるなど、多くの史料をもとにして新たな戦国観を提示している「センゴク」シリーズ(宮下英樹/講談社)などがその代表といえる。

 そうした史実主義のなかで森可成が脚光を浴び始めたのは、やはりその最期となった宇佐山城の戦いの再評価のためだろう。1570年、三好一党を討つために摂津に出陣した織田信長が、突如石山本願寺に襲撃され、苦戦を強いられているそのとき、浅井長政・朝倉義景連合軍が手薄だった京都を狙って出陣。その防戦に当たったのが宇佐山城を守る森可成だったのだ。

 攻め寄せる浅井・朝倉連合軍が3万から4万の兵を引き連れていたのに対し、主力が摂津に出陣していた織田家が宇佐山城周辺に残していた兵は約3000人ほど。まさに絶体絶命の大ピンチだったのだが、守将の可成は1000人ほどの寡兵で緒戦に勝利。最終的に可成はこの戦で討ち死にするものの、連合軍を足止めし、信長本隊帰還までの時間を稼ぐことに成功している。このエピソードが注目されてか、各作品で忠義と勇猛さを兼ね備え、織田家を救った名将としてスポットライトを当てられているのだ。

 ちなみに、この森 可成の息子としては、先にも挙げた蘭丸こと森 成利が有名だが、その後家督を継いだ森 長可も「鬼武蔵」というあだ名が付くほどの猛将で、何かとエピソードに欠かない人物。気性が荒く、主君・信長の設置した関所を名前だけなのって通過しようとして咎められると、怒って役人を切り捨てたとか、関所に火を放って強引に突破したとか、とにかく人を殺したり、トラブルを起こした逸話が多い。そのため、ネット上の一部歴史好きには、伊達政宗や細川忠興、島津忠恒と並んで「戦国DQN四天王」なんて呼ばれていたりもしているほどだ。

 信長の寵愛を受けた美少年・蘭丸はもちろん、可成、長可と埋もれたエピソードが多い森家。今後の歴史物語やゲームでは森家の再評価が進むかも?