その日、受賞者たちの心境は? 第148回芥川賞・直木賞会見レポート

更新日:2013/1/23

 続いて行われた直木賞の講評では、選考委員の北方謙三氏が登壇。朝井リョウ『何者』について、「(著者自身が)小説の方法論を理解しており、現代の青春小説として『果たして自分は何者か、何者にもなりえないのか』といった問題を真っ向から描ききった」と、高く評価した。一方、ベテラン作家の安部龍太郎氏の『等伯』については、綿密な取材ときちんとした考察の上で書かれた小説としての土台ができていると評価した上で、「(受賞後には)さらに大きく自分の世界を変えて活動していくだろう」と語った。

直木賞 朝井リョウ『何者』

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「デビューしたときから一瞬で忘れられてしまう存在になるんじゃないかなと、常に不安に思っていました。今回の受賞から、これから先も小説を書くことにしがみついていけるのかなと思っています。」

 平成生まれ初の直木賞受賞者である朝井リョウ氏は登壇すると若干緊張した面持ちでこう語った。現在、社会人一年目で、小説の執筆と並行しながら会社員として勤めている。受賞作の『何者』は若者たちの就職活動をテーマにした作品で、朝井氏は「わたしの中でも大切な本で、自分の決意がたくさん込められている」と語り、「そんな本が評価されたことはとてもうれしく、これからも作品から逃げないように頑張っていきたい。これからの夢は本を出し続けていくこと、一生作家を辞めないことです」と取材陣を前に表明した。

直木賞 安部龍太郎『等伯』

 もうひとりの受賞者である安部龍太郎氏は、現在57歳のベテラン作家。今回の受賞について「小説家として直木賞は、大きく遠い目標。思いがけなく賞をいただいたことを、ありがたく思っています」と心境を明かした。受賞作の『等伯』は、戦国時代の絵師長谷川等伯の生涯に迫った作品。10年近く前から構想しはじめ、等伯を書くことが決まって以降は5~6年に渡り執筆の準備をし続けていたという。

 「51歳で世に認められるまで不遇を耐え抜いてきた主人公の等伯にシンパシーを感じていました。僕自身が18歳で作家になろうと思った時に、『自分の人生はこのためにあるのだ』という決意をした経験もあり、等伯の自分の弱さを克服していく生き方に僕自身と重なるところもありました」と、自身の生涯と等伯を重ねあわせながら、執筆当時の心境を語った。今後は、「今問題になっている日中関係を自分の中で見直すために、大化の改新や遣唐使の留学などの頃の話を書きたい」と語った。

芥川賞

『abさんご』

 黒田夏子/文藝春秋/1260円

abさんご

直木賞

『何者』

 朝井リョウ/新潮社/1575円

何者

『等伯』

 安部龍太郎/日本経済新聞出版社/1680円

等伯