『ドラキュラ』著者の子孫による115年目の続編登場

更新日:2013/1/25

 『吸血鬼ドラキュラ』が100年以上の時を経て復活する。1897年に出版されたこの怪奇小説の古典の続編(邦訳版)が本日発売されたのだ。著者は、原作者ブラム・ストーカーの子孫にあたるダクレ・ストーカー氏と、ドラキュラ研究家で映画脚本家のイアン・ホルト氏の二人。この115年目の続編は早くもハリウッド映画化が決定しており、『スピード』のヤン・デ・ボン監督がその権利を獲得したという。

 

advertisement

 物語は原作の結末から25年後、1912年のロンドンが舞台で、原作で生き残った人物たちの運命の続きを描いている。役者を目指す青年クインシーが、周囲で連続して起きた不審な殺人事件を調べるうち、すべては30年前に起きた吸血鬼事件に端を発すると気づき、自らの出生の秘密に迫っていく、というストーリーを縦軸に、当時ロンドン中を震え上がらせた「切り裂きジャック事件」や、血の伯爵夫人エリザベート・バートリ、そしてもちろんおなじみの串刺し公ドラキュラなど、猟奇的な事件や人物たちが絶妙にからみあって展開するゴシック・ホラーだ。

 思えば、吸血鬼ほど世界中で愛されている怪物はいないのではないだろうか。映画や小説、マンガ、アニメ、ゲームなど今日に至るまで様々な作品が生み出され続けている。日本も例外ではなく、『吸血鬼ハンターDシリーズ』(菊地秀行)、『化物語』(西尾維新)、『HELLSING』(平野耕太)、『羊のうた』(冬目景)など、多くの作品がクロスメディア化されて人気を博している。

 アメリカでも、近年、本好きな女性たちの間でブームが巻き起こり、イケメン・ヴァンパイア兄弟に愛される女子高校生がヒロインの作品『ヴァンパイア・ダイアリーズ』、人間界に普通に住むヴァンパイアと女性の禁断の愛を綴った小説『サザン・ヴァンパイア・ ミステリーズ』(邦題:トゥルーブラッド)、10代を対象としたヴァンパイアとのラブロマンス本『トワイライト』の三作品は大ベストセラーになった。「セクシーで美しく、孤独で一途。優しいけれど獰猛にもなり、身を徹して愛する女性を守り抜く。まさに理想の男性像」と女性たちを夢中にさせたのだ。

 しかし、本作『新ドラキュラ』で描かれる吸血鬼は、よりオリジナルに近い。とにかく死なないのである。もともと原作は「不死者(ノスフェラトゥ)」と題される予定だったというから当然なのかもしれないが、ナイフで胸を突かれようが、銃で撃たれようがピンピンしているし、火で焼かれたって復活する。挙げ句の果てに弱点とされていた十字架もまったく効き目がないというお手上げ状態なのだ。この無敵っぷりを前に、登場人物たちは次から次になす術なく殺されていく。このまま物語を続けられるのか読みながら不安になるレベルの死亡率だ。しかしこの理不尽さこそが恐怖小説の醍醐味なのかもしれない。

 確かに本作に登場する吸血鬼たちはみな美しい。だが彼らは恋に悩むあまり、自分が吸血鬼であることを悩んだりしないし、女子高生としてスクールライフを楽しんだり、語尾に「ザマス」をつけたりもしないのだ。115年の時を経て復活したのは、純然たる恐怖。人間をはるかに凌駕する存在にいかに立ち向かうのか(しかも1912年の科学技術で)、予想しづらいだけに面白い。

 なお、本作では、原作内で描かれた主要な出来事を、登場人物たちの回想などによって追体験できるので、オリジナル作品を未読でも十分楽しめるようになっている。文学史上もっとも影響力のある吸血鬼小説『ドラキュラ』を、はじめての公式続編から堪能するのもありかもしれない。