『静かなるドン』だけじゃない! 『漫画サンデー』の知られざる名作マンガ

更新日:2013/1/29

 新年を迎えて早々、マンガ界に激震が走った。

 オヤジ系マンガ雑誌の一角『漫画サンデー』が2月で休刊するというのだ。

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 こんな形で『漫画サンデー』に脚光があびるのは、残念すぎるが、埋もれかけている『漫画サンデー』の秀逸な作品の数々が日の目をみるチャンス。ところが、ふたを開けてみると、どのニュースでも『漫画サンデー』の作品として取り上げられるのは『静かなるドン』(新田たつお/実業之日本社)ばかり。それ以外にも、マンガ好きの心をくすぐるような作品がたくさんあるのに! というわけで今回は、マンガ好きならば、ぜひともチェックしておいてほしい『漫画サンデー』発の作品を紹介しよう。

 まずは、あのインパルスの板倉俊之がはじめて手がけた小説を原作にした『トリガー』(板倉俊之:著、武村勇治:イラスト/実業之日本社)。舞台は国王制となり「射殺許可法」が制定された近未来の日本。国王に選定され、独自の判断で人を射殺できる許可を得た者たち「トリガー」が主人公として活躍するハードボイルドアクションだ。トリガーは、各都道府県にひとりずつ配備されているらしく、県ごとのトリガーの物語をオムニバス形式で描いている。なんといっても見どころは、悪と感じるやいなや、即射殺するトリガーの活躍っぷり。たとえば、職務質問してきた警官が、横柄な態度だった。よくあるとはいえないが、けっして、ないとはいえない話である。そんな警官もトリガーの手にかかれば、すぐさまズドン、だ。脳天に風穴を開けられ、見通しのよくなった警官は、きっとあの世で、その横柄さを反省していることだろう。ほかにも、借金取りや不法投棄をした人から、電車でまわりの人に迷惑をかけた人、定食屋で騒いだだけの若者まで、トリガーはもうガンガン射殺しまくっていく。読んでいけば、ある種のカタルシスが感じられてくるものの「ちょっと、やり過ぎなんじゃあ」という気持ちも芽生えてしまう。「悪」と感じただけで、すぐさま殺していいものなのか、命の大切さとはなにか、そんなことまで考えさせてくれる、深い作品だ。

 また、サッカーというスポーツを裏で支える人々にスポットを当てた『サッカーの憂鬱~裏方イレブン~』(能田達規/実業之日本社)も、『漫画サンデー』を語るうえで絶対に外せない作品のひとつ。クラブ社長に審判、スポーツカメラマン、実況アナウンサー、ターフキーパー(芝管理人)など、総勢11人の裏方の人々が登場する。たとえば、ターフキーパー(芝管理人)という聞き慣れない役職をもつ人たち。ただ芝を生育し、伸びた芝を刈ればいい、楽な仕事なのでは、というとそんなことはなく、時期・天候・生育具合に応じて、ドリリング用機械、バーチャルカッター、土壌准注用機械、スパイキング用機械などの機械を使い分け、常にベストな状態の美しい緑の芝生を作り出さなければいけない、大変な仕事なのだ。また、スポーツカメラマンも90分間の試合の中で生まれるワンプレー、一瞬のベストショットを得るために、試合展開を読みながらフィールドを駆け回りシャッターをきる。その枚数は800枚以上というのだから、想像以上にハードな仕事だということがヒシヒシと伝わる。ワールドカップもJリーグも、華々しい選手たちとともに、そういう人たちがいるおかげで成り立っているんだと思わせてくれる作品なのだ。不定期連載だったものを1冊にまとめた単行本が出ているので、サッカー好きは要チェックだ。

 次に紹介するのは、あの「かまいたちの夜」シリーズでおなじみの我孫子武丸が原作を担当した異色のミステリーマンガ『監禁探偵』(我孫子武丸:著、西崎泰正:イラスト/実業之日本社)。とある女性の下着を盗もうと、部屋に忍び込んだ主人公・山根亮太。彼はそこで、その女性の死体を発見してしまう。どうやらだれかに殺されたようなのだが、亮太は警察に知らせない。というより、知らせられない理由があった。じつは彼は、自室に少女を監禁していたのだ。亮太は監禁している少女、アカネの助言を頼りに、女性の死をめぐる事件の謎に迫っていくことになるのだが……。その設定もさることながら、事件の真相に迫っていく過程は、「さすが我孫子武丸」とうならされること間違いなし。映画化も決定しているようなので、事前にチェックしておく良い機会だろう。

 異色の学習マンガ『をのころん』(高本ヨネコ:作画、ルノアール兄弟:原作)も忘れてはいけない。主人公、小野緒乃子は高校1年生の女の子。ある日突然、顔がハートの形をした女神、ジョディ・オンヌから、男の世界を探るという任務を課せられてしまう。それ以来、緒乃子はさまざまな男の世界を覗いていくことになる。キャバクラやレンタルビデオのAVコーナー、サウナ、銭湯の男湯、オッサンの集まる酒場など、そこにあるのは、滑稽なまでの男の生態ぶり。男なら「あるある」とうなずいてしまうことばかりなのだが、女の子である緒乃子にとっては驚きと、ため息の連続。しかし、「男」というものを知るには、これ以上のものはない。世の女性方にはぜひ読んでほしい作品だ。

 ほかにも、『援護部長ウラマサ』(渡辺獏人/実業之日本社)や『シバのヨル』(松枝尚嗣/実業之日本社)『シンクロ』(坂辺周一/実業之日本社)など、おもしろい作品はまだまだある。『漫画サンデー』をオヤジ系雑誌とあなどっている方、『静かなるドン』だけのマンガ雑誌と思っている方は、猛省していただきたい。そして、できるなら『漫画サンデー』や、そこから生み出された作品を手にとってほしいのだ。

 1959年の創刊から、54年にわたる歴史の幕をとじようとしている『漫画サンデー』。それを止めることは、もうできないのかもしれないが、その瞬間を見守ることはできる。ひとりでも多くの人たちに囲まれて休刊したのなら『漫画サンデー』も幸せなのではないだろうか。
 さあ、今からでも十分に間に合う。『漫画サンデー』に、最期まで、その笑顔を見せてあげようではないか。