意識高い系VS愚直で泥臭い系、ビジネス書の新潮流とは?

ビジネス

公開日:2013/2/5

 ビジネス書などを読んでいると、やる気が無性にアップしたりすることはないだろうか。朝活で時間を有効活用し、異業種交流会に出かけて人脈を広げ、世界で通用する人材になるべく英語力を磨き、SNSを駆使してセルフブランディングを高め、ヨガやマラソンで体調管理も怠らない…。そんな“デキる”自分の理想像を思い描けば、「よっしゃ! やったるで!」と瞬間的にはモチベーションがグンと高まる。

advertisement

 一方で、最近は安藤美冬氏の『冒険に出よう』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)や、イケダハヤト氏の『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社)など、新しい働き方や価値観の登場を高らかに宣言する本の出版も目立つ。「会社という枠組みにとらわれず自由に働こう!」と訴えてくるこれらの本に接すると、“ここではないどこか”に自分の目指すべき場所が存在しているような気分になり、これまたモチベーションが妙に上がったりする。

 しかし、はたしてそれは現実的なものなのか。

 確かに自分の理想像を思い描くのは悪いことではないだろう。とはいえ、上記を本気で実践しようとすると非常にエネルギーが必要となるから、それだけで自分のキャパシティを越えてしまいかねない。

 本来ならば、目の前の仕事をしっかりと効率よく仕上げていけるようになるための自分磨きであるはずなのに、“磨く”という行為自体に労力をかけすぎるあまり、逆に仕事の質が低下してしまう…。また、本に書いてある理想論に激しく同意するあまり、身近な仕事仲間や目の前の仕事が陳腐なものに感じられてしまう瞬間もある…。これでは、ビジネス書として本末転倒もはなはだしいだろう。

 こういった状況に警鐘を鳴らすのが、人材コンサルタント・常見陽平氏の『「意識高い系」という病─ソーシャル時代にはびこるバカヤロー』(ベストセラーズ)だ。

 常見氏の主張はいたってシンプル。自分を磨くのも結構。意識を高く持つことも結構。でも、現実はちゃんと見よう。これが本書で繰り返し訴えられているメッセージだ。

 かつて自分自身も「意識高い系(笑)」であったという常見氏は、その体験談や同種の人々との交流経験、また社会調査のデータや、自分磨きのバイブルと名高い『日経ビジネスアソシエ』(日経BP社)の丹念な分析により、「意識高い系(笑)」が陥りがちなワナを丹念にあぶり出す。

 ロジカルシンキング、ライフハック、情報のキュレーションに、○○力や○○術…。次から次へと登場するトレンドワードは、ビジネス書を売るために仕掛けた出版社の策略かもしれないし、異業種交流会や各種勉強会などのイベントも、主催者が自らの集客力をアピールために設定した場かもしれない。そういったものに踊らされることなく、今の自分に求められているスキルをきちんと磨き、自分が関わっている仕事の現場で実力を発揮せよ──。

 こういった「目の前の仕事に全力で取り組め」系の言説は、鹿毛康司氏『愛されるアイデアのつくり方』(WAVE出版)や中川淳一郎氏『凡人のための仕事プレイ事始め』(文藝春秋)といった本でも語られている。浮ついたブームに流されず、着実に実力を磨けという、実に大人なメッセージに感じる。

 ついつい「意識高い系(笑)」になりがちなすべてのビジネスマンに読んで欲しい1冊だ(もちろん自戒を込めて…)。

文=清田隆之/桃山商事