空前のゾンビブーム! 死人になったほうがマシな時代!?

エンタメ

公開日:2013/2/8

 “ウォーカー”と呼ばれるゾンビで溢れかえったアメリカを舞台に、さまざまな人間模様を描き、全米で異例の大ヒットとなった『ウォーキング・デッド』。世界中でブームを巻き起こしているゾンビだが、その人気は日本でもとどまらない。3月23日からは『ウォーキング・デッド』シーズン3の後半が放送されるし、マンガや映画でもゾンビものが続々と登場している。おまけに、1月28日に発売された『ユリイカ』(青土社)では、ゾンビ特集が組まれるほど。これほどまでに今、世界中を魅了しているゾンビたちだが、人々は彼らのどんなところに惹かれるのだろう?

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 まず、映画やドラマ、ゲームで親しまれてきた人を襲うゾンビは、1968年に公開された『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』によって定着した。それまでは、ブードゥー教の魔術によって蘇った単なる操り人形で、労働力として使われる奴隷のようなものだったが、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』によって自ら行動し、人を襲う。頭を潰さなければ死なないし、ゾンビに食べられた人もゾンビになるといった今に続く設定が浸透した。

 当時はゾンビという存在がどこか絵空事みたいで、未来や実体のないもの。見えない恐怖をゾンビとして具現化することで、それに打ち勝とうとしていた。だから、ホラー映画なのに純粋に怖いだけのものよりもコメディやエンターテイメント性の高いものが人気になり、『バイオハザード』や昨年iPhoneで人気になった『ゾンビ・ハイウェイ』のように、ひたすらゾンビをやっつけていくゲームが人気になった。また、意思疎通もできないし、殺してもなんの問題もない。自分に刃向かってくるもの。そんなゾンビに自分の周囲の人を重ね、ストレス発散するのにもちょうどいい存在だったのかもしれない。

 しかし、最近のドラマや映画では『ウォーキング・デッド』に続くかのように、家族や人の絆を描く感動ものが主流になっているようだ。1月12日に映画が公開された『ロンドンゾンビ紀行』でも、若者と老人が手を取り、助け合いながらゾンビと戦う姿を描いている。それに、イギリスでもゾンビになった人がリハビリを経て日常生活に戻っていくというドラマ『In the Fresh』の撮影が始まっている。海外ドラマNAVIによると、この作品は「家族が再び一緒になるチャンスを持つことで、過去の関係を修復しながら、予想不可能な未来に向けて生きる姿を、優しさを込めて描く」そう。ゾンビは普通の人と少し違うだけで、あくまでも同じ人間として描かれている。もしも家族や友人がゾンビになったら……。そう考えるほど、ゾンビが身近な存在になってきた。

 また、マンガでも、近年『アイアムアヒーロー』(花沢健吾/小学館)や『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(佐藤大輔:原作、佐藤ショウジ:作画/富士見書房)といったパンデミックものの人気がますます高まっている。しかし、最近では『さんかれあ』(はっとりみつる/講談社)や『ゾンビッチはビッチに含まれますか?』(柊 裕一/スクウェア・エニックス)、『りびんぐでっど!』(さと/秋田書店)などにより、マンガのゾンビ=女の子という図式も定着してきている。かわいい女の子がゾンビになっちゃうような、萌系作品が多いのだ。ゾンビなのに腐ったりボロボロになることがなかったり、ちゃんと自我をもって明るく生きている彼女たち。そんなかわいい女の子たちと一緒に生きられるなら、ゾンビだって悪くないと思うのでは?

 同じように、ラノベにおいてもかわいいゾンビ少女はたくさん登場する。『あるゾンビ少女の入学』(池端 亮:著、蔓木鋼音:イラスト/角川書店)や『妹がゾンビなんですけど!』(伊東 ちはや:著、6U☆:イラスト/PHP研究所)などがそうだ。しかし、ラノベにおいて最も多いのは、自分がゾンビになっちゃうもの。アニメも大ヒットした『これはゾンビですか?』(木村心一:著、こぶいち:イラスト、むりりん:イラスト/角川書店)や『シロクロネクロ』(多宇部貞人:著、木村樹崇:イラスト/アスキー・メディアワークス)、『Zぼーいず/ぷりんせす』(田口仙年堂:著、るご:イラスト/エンターブレイン)もそうだが、主人公は地味でオタクな少年。でも、ゾンビになったことで強い自分になれる。

 こういった作品が増えたのは、ゾンビが身近なものになった結果、ゾンビになりたい人が増えたからなのではないか。何も考えず、何も決めず、ただ死人のように生きる。未来に希望も持てず、なんのために生きているのかもわからない。昔はそんな恐怖に打ち勝つためにゾンビを倒してきたが、いっそその流れに身を任せたいという人が増えた。だからこそ、これほどまでにゾンビが注目されているのだろう。だとすれば、まだまだゾンビブームは続きそうだ。