変わるべきは世界か自分か? 今注目の、男の革命コミック

マンガ

更新日:2013/2/15

 マンガの主人公は、世界を変えようとする存在だ。それは、学園という小世界であったり、崩壊しつつある地球を救うことであったり、スケールの大小はあるものの、何かしら変えたい世界があって、彼らは孤軍奮闘する。世界が変わるべきか、それとも自分が変わるべきか。今、男のレジスタンスを描いた革命コミックが注目を集めている。『ダ・ヴィンチ』3月号では、「男の革命コミック」を特集し、注目作品を紹介している。

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 ――80年代末に連載された『迷走王ボーダー』(狩撫麻礼/作 たなか亜希夫/画)は、バブル期の浮かれた空気に対するラスタ思想の革命コミックだった。今なお熱く支持されるこの作品が、『ネオ・ボーダー』(ひじかた憂峰/作 たなか亜希夫/画)として20数年ぶりに甦った。ただし、舞台は現代ではなく、平安時代末期。貴族に対する武士の革命が起きる前夜だ。原作のひじかた憂峰は、狩撫麻礼の別ペンネームであり、たなか亜希夫との名コンビ復活。当然、ただの時代劇ではなく、現代社会に通じる肉声のメッセージが放たれるだろうと期待している。

 いましろたかしの『原発幻魔大戦』は、作者の実体験を思わせる脱原発マンガだ。福島原発事故の後、サラリーマンのサトーは反原発デモに参加するなど、自分1人でも行動しようと思い立つ。しかし、彼が危機感を募らせるほど、周囲の傍観者ムードとのギャップが広がり、空回りするばかり。それでもいましろたかしは、世の中に物申せる立場として、この状況に黙っちゃいられないのだ。

 もし、無力な個人が、国家を揺るがす力を持ったら? 森 恒二の『デストロイandレボリューション』では、今の社会構造に憤る少年が、超能力による破壊テロで革命を起こそうとする。やり場のない10代の怒りが凝縮され、今にも破裂しそうな、ただならぬ気配だ。

 さらに極端な革命を描いたのが、『革命戦士 犬童貞男』(佐々木昇平)である。人類を滅ぼし、動物による革命を宣言する謎の犬男だが、実は非モテ男子のルサンチマンが原点。たしかに男の鬱屈が、革命願望にすり替わることはあるかもしれない。世界を変えるのではなく、自分こそ変わるべきなのであった……。

 自分を変えるために、「ブッダの教え」という高尚なものを持ち出したのが、ツギノツギオの『聖煩悩中学生 スッパニタータ』だ。中学生の性欲を、いちいちブッダの教えになぞらえて解釈する様が笑いを誘うのだが、聖人として生きるか俗物として生きるか、せめぎ合う青年期特有の煩悶は、何気にシリアス。ギャグのようでいて、鬼気迫るものを感じさせる。――(構成・文=大寺 明)

 このほか本誌では、作者自身を思わせるマンガ家が、世界をコントロールするシステムに対してテロ行為におよぶ『PUNK』(長尾謙一郎)や、ドラッグによるインナートリップで捉えた“世界”を描いた『ウルトラヘヴン』(小池桂一)、「水草水槽」という趣味の世界に魅入られていく作者自身を描いた『部屋へ!』(タナカカツキ)を紹介。また、反体制精神をもち革命を描き続けるマンガ家・新井英樹のインタビューを掲載している。

(『ダ・ヴィンチ』3月号「コミック・ダ・ヴィンチ」より)