最新作『旅猫リポート』が自身の脚本で4月に舞台化! 有川 浩スペシャルインタビュー

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更新日:2013/8/13

有川 浩の『旅猫リポート』が切り開く
演劇と小説の新たな関係性

旅猫リポート

(さあ、行こう。これは僕らの最後の旅だ。〉

 2011年は『県庁おもてなし課』、2012年は『空飛ぶ広報室』と、2年連続で『ダ・ヴィンチ』本誌「ブック・オブ・ザ・イヤー」総合第1位を獲得。人気小説家の有川浩さんが、劇作家として、演劇ジャンルでの活動を本格化させている。信頼を寄せる俳優・阿部丈二さんと組んだ演劇ユニット「スカイロケット」、その第1回公演『旅猫リポート』はもうすぐ開幕だ(4月3日(水)~7日(日)、新宿・紀伊国屋サザンシアター、現在チケット発売中⇒くわしくはこちら)。有川さんは、同作の脚本を担当した。日本演劇界を代表する劇団「演劇集団キャラメルボックス」の看板俳優らが出演し、スタッフワークを含め最高のメンバーがそろい踏み。文芸界のみならず、演劇界からも高い注目が集まっている。

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 原作は、有川さんが昨年11月に発表した同名長編小説だ(文藝春秋刊)。主人公=語り手は、7の形のしっぽを持ったオス猫、ナナ。ご主人様サトルの「やんごとなき事情」で離ればなれにならなければいけなくなり、ふたり揃ってもらい手探しの旅にでかける。銀色のバンに乗り込み、後部座席に猫砂入りのトイレを積んで、南へ北へ旅するふたりの行き着く先は――。

 実は、本作はもともと演劇作品として構想されていた。縁が重なり、小説を先に執筆することになったのだ。本作で実現した、小説と演劇の特別な関係性を、有川さんはかつて雑誌のインタビューでこう答えている(『CREA Due cat No5』)。

「まず『ひとりの男が、最後の旅に出る話はどうだろう?』というアイデアが浮かんだんです。最後の旅ってどんなシチュエーションだろう、誰に会いにどこに行くだろうと、イメージがどんどん膨らんでいって。その後、忘れもしない新宿の新南口の通路を通っている時でした。ふっと、『最後の旅に、猫を一緒に連れていてもいいよね』と。ですから猫を登場させることは、自分で考えたというよりも“降ってきた”という感じだったんです。

 公演の全日程が終わった後、阿部(丈二)さんに手紙を書きました。『あなたのために戯曲を一本書きたい。書きたい話はもう見えています。ただ、私にはまだ戯曲を書く力が足りないので、もう少し待っていて下さい』。詳しい話の中身は、その手紙では伝えていなかったんですね。お返事の手紙には『待っています』という言葉と一緒に、驚くようなことが書かれていました。

 実はこの公演中、実家で23年間飼っていた猫が危篤状態になっていたそうなんです。『僕が千秋楽を終え打ち上げを終えて、家に帰るまで待っていてくれました。無事に見とれました。僕がこの公演を悲しい気持ちで思い出さないように、待っててくれたんだなあと思いました』。すぐにメールを出しました。『信じていただけますでしょうか。私が考えていたあなたの物語は、あなたが猫を連れて最後の旅に出る物語なんです』。阿部さんからも即レスで、『鳥肌が立ちました!』と。

 その猫の名前が、ナナなんです。女の子っぽい名前だけれど、男の子。不思議なことに、私の中に“降ってきた”猫も、男の子だったんですよ。『ああ、ナナが私のところに来たのか』と思いましたね。そんな不思議な因縁で始まったのが、この物語なんです」

 そして、ダ・ヴィンチ本誌でのインタビューで、有川さんはこう語ってくれた(2013年1月号)。

「『旅猫リポート』は、別れの話ではあるんですけれど、悲しい話にしたくなかったんですね。別れの後で、それでも幸せなエンディングを迎えられるかどうかが勝負所でした。私としては、一生に一本しか書けない物語ができた、と思っています」

 その物語が、作家自らの手で脚本化され、演劇になる。演劇は正真正銘、一期一会の、なまものだ。ピンときたなら是非チケットを取って、この幸福なコラボレーションの結末を、目撃してほしい。

次のページでは舞台準備真っ只中である有川さんへの
メールインタビュー本編を掲載します!

構成・文=吉田大助

 

旅猫リポート

『旅猫リポート』 有川 浩/文藝春秋

秘密を抱いた青年と1匹の相棒の旅の行方は

現代最強のストーリーテラーによる、青年と猫のロードノベル。暖かな光あふれるラストまで、どのページにも忘れ難い風景が広がる傑作