『ザ・ワールド・イズ・マイン』新井英樹がマンガを通じて描く新たな“革命”

マンガ

公開日:2013/2/16

  連続爆弾犯の逃走劇を描き、マンガ界に衝撃を与えた新井英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』。2001年の連載終了後、新たに始まったのが『キーチ!!』である。その続編であり、最新刊が発売されたばかりの『キーチVS』がとんでもないことになっている。「世の中を変えたい」と願った少年は大人となり、ついに政府とアメリカを敵に回すテロ行為に及んだのだ。物語に込められた作者のメッセージとは? 『ダ・ヴィンチ』3月号では、『SCATTER』最新刊も発売されたばかりのマンガ家・新井英樹のロングインタビューを掲載している。

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 ――「子供編から大人編に移るとき、輝一が普通の人になっているか、カリスマ化が進んでいるかの選択があった。あの当時(ゼロ年代半ば)、これはヤバイでしょ、という方向に世の中が進んで見えたから、子供編のラスト辺りで、カリスマのほうを選ぼうと決めてました」
キーチVS』のメッセージは痛烈だ。『ザ・ワールド・イズ・マイン』が、漠然とした社会への怒りのような感覚であったのに対し、今ある日本の社会問題への怒りを直接ぶつけてくる。

 「結局、反体制みたいなことを描こうとしたわけだけど、自分が今の世の中でおかしいと思ってる感覚は、口に出さないだけで、みんなが思ってることだと思ってたんです。ところが、必ずしもそれが共通じゃないことに気づいた。そこで、何がおかしいのか、その前段階から描いて、怒り方を描かないとダメだって思ったんです。それを比喩で描いても、ほとんどの人は自分のことに置き換えて考えない。だから、現実ベースの直接表現で出すことにした。ほんとは不健全なことをやりたくてマンガを描いているのに、すごく健全なことを描かなきゃいけない。それがすごくイヤで(笑)」

 『キーチVS』では、輝一がNPO法人の代表となり、「真っ当でいろ」というメッセージを掲げ、困った人を助ける活動をしている。しかし、輸入牛肉偽装事件の内部告発に関わったことから、政治圧力と向き合うことになり、問題はアメリカと日本の関係へとシフトしていく。こうした一連の流れから、新井英樹は今の社会問題の本質をあぶり出そうとしているのだ。

 「反原発、消費税反対と言ってるのに、原発推進で消費税増税の党が勝ってしまう。年末の衆院選の結果は予想以上だった(苦笑)。この調子だと、TPPの問題も沖縄の基地問題も、現実を考えたらできない……と回避されてしまう。青くさい理想で言えば、政治家というのは、国民の生活をよくし、生命財産を守るための理想を掲げて、それに近づけるよう動くべきですよね。だけど、日本の場合“現実的に考えたら……”という基準になる。じゃあ、その現実って何よ? と言うと、結局はアメリカとの関係性なんです。つくづく奴隷スキルが染みついているというか、怒ることをやめちゃったのか……と思う」――取材・文=大寺 明

 本誌では、真っ当な世の中を要求し見えない敵と戦い続ける主人公の行く先と、そこにこめられた作者の想いが存分に語られている。

(『ダ・ヴィンチ』3月号「コミック・ダ・ヴィンチ」より)