「テルマエ」だけじゃない! 今、マンガ家の“温泉&サウナ”本が熱い!

暮らし

公開日:2013/2/16

  休みの日は温泉にでもつかってのんびり過ごしたい。いや、休みの日じゃなくても温泉でリフレッシュしたい。今や全国各地に日帰り温泉施設やスーパー銭湯があるから、仕事帰りに小一時間ほど温泉に行くことも簡単になった。しかし、夜はけっこう混んでいる。できれば、空いている平日の昼間に行きたいところだ。「平日の昼間」という束の間の贅沢とかすかな罪悪感……この感覚を著したのが久住昌之の『ちゃっかり温泉』(和泉晴紀:イラスト/カンゼン)だ。

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 横浜の網島温泉や東京の高井戸温泉など、都内から電車や自転車で手軽に行ける温泉施設10カ所をめぐった日帰り温泉エッセイなのだが、「日帰り」を「ちゃっかり」と言い換えるあたりが上手い。

 『孤独のグルメ』(谷口 ジロー:作画/扶桑社)や『花のズボラ飯』(水沢悦子:著/秋田書店)など庶民派グルメマンガの原作者として知られる久住昌之だけあって、湯上りに小旅行気分で商店街を散策し、いい感じの居酒屋を見つけて1杯やったりと、二重三重にちゃっかり。1泊ウン万円といった温泉旅館で贅沢したいわけではなく、日帰り温泉のゆる~い人間くささを味わっているのだ。昭和ムード漂う寂れた温泉施設もまた一興。ヘロヘロの温泉旅館タオルで十分。そう思えれば、ほんと楽、とことん楽。そんな温泉のたしなみ方に、思わずニンマリしてしまう。

 風呂は単に体を洗って温めるところではなく、身も心も生まれ変わる「母体回帰」だと久住昌之は言う。あるいは「非日常のオアシス」。……要は仕事の合間にリフレッシュということ。原稿の締め切りをサボって温泉に出かける背徳感がまた、たまらなく気持ちいいというわけだ。だから、温泉の効能云々といった理屈は言わない。気持ちいいは気持ちいいだし、美味いは美味い。独特の視点のようでいて、実は至極当たり前の感想をストレートに言うのが久住節だ。日本の風呂文化を描き大ヒットした『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ/エンターブレイン)に続き、ぜひ今度は『孤独のグルメ』のような男の温泉マンガをやってほしい。

 心と体をリフレッシュするには温泉もいいけどサウナも捨てがたい。そんな方にはタナカカツキの『サ道』(パルコ)をおすすめしたい。

 これまで著者はサウナを拷問のように感じていた。本来は不快なはずの蒸し暑さを好むことが理解できず、オヤジのストレスが汗とともに滴り落ちる汚い場所といったイメージしかなかった。それが、40代になったばかりの頃、突如サウナに開眼。サウナの後に水風呂に入ることを繰り返してみたところ、未知の解放感を得たことがきっかけだ。その感覚を「ニルヴァーナ」「瞑想状態」と言い、あまりに大袈裟で笑ってしまう。でも、同じくサウナ好きとして、水風呂に入ったときの全身が無になったような快楽がとってもよくわかる。

 以来、タナカカツキはサウナと水風呂を「セッション」と呼び、昼と夜の1日2回サウナに入るほどハマってしまう。血行がよくなって職業病の肩こりにもいいし、頭に酸素が行き渡って仕事のアイデアも生まれて、いいことずくめ。こうなると、もはやサウナは単なる健康やダイエット目的の設備ではなくなり、人生にとって欠かせない“サウナ道”と化すのであった。

 さらにサウナを精神性にまで高めたコミックが吉田貴司の『フィンランド・サガ(性)』(講談社)。サウナチャンピオンという謎の男が「耐えろ、それが人生(サウナ)だ」といちいち物事をサウナになぞらえて男の美学を語る。シュールなギャグテイストだが、実際にサウナで耐えてるときって、何気に自分の心と向き合ってたりしません? こちらも笑ってしまうんだけど、なんかわかるな~という読後感です。

 温泉やサウナまでマンガにしてしまう日本のマンガ文化。あらためてその自由さと奥深さに感嘆してしまう。もしかしたら今後、新ジャンルとして確立されていくかもしれない。

文=大寺 明