前田あっちゃんも4回見た! 『レ・ミゼラブル』の謎がわかる本

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

 あの前田敦子が4度も映画館へ足を運び、離婚調停中の俳優・黒田勇樹が調停前日に鑑賞するなど、大ヒット中のミュージカル映画『レ・ミゼラブル』。公開7週目にして興行収入はおよそ42億円にものぼり、日本で公開されたミュージカル映画としては歴代1位となった。

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 そんな『レ・ミゼラブル』(ヴィクトル・ユゴー:著、永山篤一:訳/角川書店)は、フランスを代表する文豪ヴィクトル・ユゴーの作品で、貧困格差にあえぐ19世紀のフランスが舞台。主人公のジャン・ヴァルジャンが、1本のパンを盗んでしまったことから始まる。そのせいで19年もの間徒刑場に入れられてしまった彼だが、後に出会ったミリエル司教によって改心し、正しく生きることを誓った。そのなかで1人の少女・コゼットと出会い、さまざまな事件に出くわしながら激動に巻き込まれていく。おおまかに言うとこんな感じのお話である。

 映画を観て、ジャン・ヴァルジャンやコゼット、当時のフランスについてもっと詳しく知りたいと思い、原作に興味をもった人も多いのではないだろうか? しかし、原作はかなりの長編なうえ、一見ストーリーとは関係なさそうな脱線部分も多く、本好きでも挫折してしまう人がいるくらい。そんな『レ・ミゼラブル』の世界観をより深く理解することができるレミゼファン必携の1冊となっているのが、昨年復刻された『「レ・ミゼラブル」百六景』(鹿島 茂/文藝春秋)だ。

 そもそも、たった1本のパンを盗んだだけでジャン・ヴァルジャンが19年も徒刑場に入るなんて、なんだか違和感がある。しかし、当時の具体的な給料や物の値段がわかれば一気に謎は解ける。この本によると、当時の肉体労働者の時給は2スー。それに比べ、パン1キロ(バゲット4本分)の値段が5スーだったという。姉と姉の子ども7人を養っていくのに、彼の1日の給料である24スーは少なすぎたのだ。実際の貨幣価値を理解することでその出来事を実感することができるし、物語を楽しむこともできるだろう。

 また、ジャン・ヴァルジャンは後にマドレーヌと名乗り、市長として生きるのだが、前科者だった彼がなぜそれほどまでにのぼりつめることができたのだろうか? 裕福になれたのは黒玉ガラスの製造が大当たりしたからだが、当時は隣町に出かけるだけでもパスポートが必要で、特に罪を犯したものは黄色いパスポートを所持していた。そんな彼が、なぜ“マドレーヌ”として生きることができたのか。実は、彼がこの町にやってきたときにたまたま市役所で火事が起こり、火の中に取り残された憲兵隊長の子どもを助けたので、パスポートの提示を求められなかったからなのだそう。どんなときでも正しく生きようとしていた彼だからこそ、“マドレーヌ”として生きることができたのだ。

 そして、この作品のもう1人の主役とも言えるのが、ジャン・ヴァルジャンを追う刑事・ジャベールだ。映画の中では、執拗にジャン・ヴァルジャンを追い続ける彼だが、なぜそれほどまでにジャン・ヴァルジャンにこだわったのだろう? それに、ジャベールのあまりにも突然すぎる死。なぜ彼は、自ら川に身を投げてしまったのか? 映画の感想でも、「なぜ彼はここで死んだのか?」という疑問の声が多くあがっている。これには、彼の出生や法に対する絶対的な尊厳が関係しているのだ。

 徒刑囚だった父のもとに生まれたジャベールにとって、悪や犯罪は何よりも憎むべきもの。法が彼にとっての絶対だった。ジャン・ヴァルジャンをあれほどしつこく追いかけたのも、彼が出所した後に少年から40スー(2フラン)、当時およそ2000円を奪っていたから。当時“時効”という考えはなく、再犯規定も厳しかった。そんな犯罪者の彼が自分を救ってくれ、人を助けるために自分を犠牲にするような人だったため、ジャベールはひどく混乱してしまう。それまで彼にとって絶対であった「法」や「秩序」を破ったなら、上司に辞表を出せばいい。でも、「人間の良心」という「神」に出会ってしまった彼は、「神に辞表を出すにはどうしたらいいのか」わからなかった。警察として、犯罪者であるジャン・ヴァルジャンを捕まえるという「義務を否定した自分を自己処罰という形でしか処理しえなかった」のだ。

 他にも、ジャン・ヴァルジャンとジャベールのモデルになった人物が同一人物であったことや、コゼットが夜店で眺めていた人形がどこで作られたものかといった豆知識まで知ることができる。これを読んで、さらに深く『レ・ミゼラブル』の世界に足を踏み入れてみては?