海外で受ける日本マンガの条件とは? 「マンガ翻訳コンテスト・シンポジウム」レポート

マンガ

更新日:2014/1/29

 2月21日、六本木ヒルズ(アカデミーヒルズ)にて、「マンガ翻訳コンテスト・シンポジウム『マンガとMANGAをつなぐ翻訳』―Manga Translation Battle 2012から見る、海外における日本マンガの今―」というイベントが開催された。このイベントは、2012年に開催された翻訳コンテスト「Manga Translation Battle 2012」の授賞式と、コンテストの大賞者、審査員、編集者、マンガ翻訳家を招いたトークセッションの二部構成となっており、日本のマンガが世界ではどのように翻訳され受容されているのか、翻訳の魅力とは一体どのようなところにあるのかなどが話し合われた。

 登壇者は、文化庁文化部芸術文化課で研究補佐員を務めている椎名ゆかり氏をモデレーターに、「Manga Translation Battle 2012」大賞受賞者の清水梨慧子氏、アメリカで『乙嫁語り』や『ポケットモンスター:電撃ピカチュウ』といった作品を翻訳してきた翻訳家のウィリアム・フラナガン氏、少女マンガ誌『りぼん』編集長の冨重実也氏、講談社国際事業局局長の吉羽 治氏、NHK『英語でしゃべらナイト』などにも出演している翻訳家のマット・アルト氏の6名。会場は、英語と日本語が入り混じりながらのトークセッションとなった。

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 セッションはウィリアム・フラナガン氏による日本マンガを翻訳する際の難しさといったところから始まった。「翻訳で難しいのは、日本語のダジャレや、ことわざ、マンガ内にしか登場しない造語、他の作品のパロディなどで、そういったものをどのように翻訳するのかが肝になってくる」と語り、日本語のニュアンスやストーリーの文脈を再現するためにはどういった表現が適切になるのかについて、『美少女戦士セーラームーン』や『School Rumble』といった作品の実例を示しながら解説した。

、アルト氏は、以前、欧米に日本の妖怪を紹介するための図鑑を作っている時に、妖怪の名前をどう翻訳すべきかで迷ったというエピソードを披露。「さんざん悩んだ挙句、さんざん悩んだ挙句、妖怪の名前自体はあえて翻訳しないことにしました。寿司や侍のように、そのまま翻訳せずとも伝わるようにするということも大事で、どこまでを翻訳するか、あるいはしないのかにも、翻訳家たちのテクニックが必要」だと語った。

 また、日本のマンガは海外からどのように注目されているのかといった話題になると、講談社の吉羽氏は現在日本のマンガは、フランス、アメリカ、韓国、といった国々が多く受容していると指摘。特にアメリカでは日本の漫画を紹介しはじめた当初は細々とした売れ行きだったが『セーラームーン』が知られるようになってからは作品数が増えたという。フラナガン氏によると、日本のマンガがアメリカで受けるためには、ほぼ必ずファンタジー要素があることが必要で、青春をテーマとした作品や、スポーツ根性モノの作品は一部をのぞいては人気にはつながらないと、経験談を元に語った。そこにはアメリカの読者の多くが、現実から遠ざかるための手段としてコミックを受容しており、現実的な権力構造の中で動いている物語に抵抗感があることが関わっているといった話もなされた。

 さらに、アルト氏は、「第二次世界大戦中の国々を擬人化した『ヘタリア』といった作品や、日本の県ごとの特産物や名物などを擬人化したゆるキャラなど、日本人はかつてからキャラクターを創造しそれを広めて紹介することが得意なのではないか」と、忍者や侍といった言葉が国境を超えてひとつの概念として定着していることと繋げた上で述べた。

 昨今、インターネットの普及により日本のマンガの海賊版が横行し、海外の読者たちの中には正規版よりも海賊版の方が翻訳の質がよいということから、なかなか正規版の普及がしにくい現状があるという話も飛び交っており、海外における日本のマンガ事情は現状様々な問題を抱えていることがうかがえた。日本の面白いマンガというコンテンツが国境を超えて、これからも多くの人に届くようにするには、作品の魅力を最大限に伝えることのできるマンガ翻訳家たちの育成が必要だ。そうした意味においても、今回の『マンガとMANGAをつなぐ翻訳』シンポジウムは、世界における日本のマンガの位置だけでなく、それを支える翻訳家たちの重要性を実感させられるイベントであった。