古書店、バリスタにつづき占い師も登場! コージーミステリー人気の理由

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

 現在ドラマも放送中の大人気シリーズ『ビブリア古書堂の事件手帖』。古書店店主の栞子が、お店に持ち込まれる謎を解き明かしていくというお話だが、最近『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(岡崎琢磨/宝島社)や『和菓子のアン』(坂木 司/光文社)、『思い出のとき修理します』(谷 瑞恵/集英社)のように、なんとなく似た雰囲気の作品が次々と登場し、人気を集めている。さらに、2月23日には『悩み相談、ときどき、謎解き?~占い師ミス・アンジェリカのいる街角~』(成田名璃子/アスキーメディアワークス)という本まで発売された。実はこれらの作品、欧米で女性に大人気の“コージー・ミステリー”というジャンルに近いのだ。“居心地のいい”という意味を持つコージー・ミステリーはもともとハード・ボイルドの対義語として生まれたのだが、なぜ今これほどまでに人気が出ているのだろうか?

 まず、コージー・ミステリーにおいて謎解きをするのは、警察でも探偵でもなく他の人よりちょっとだけ秀でたところを持った女性がほとんど。本に関する知識が人一倍多い『ビブリア古書堂』の栞子や、お客さんのちょっとした行動、言葉に敏感で、珈琲のうんちくも豊富な『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』のバリスタ・切間美星。『和菓子のアン』では、デパ地下に入っている和菓子屋の店長で洞察力もすごく、和菓子や株などの知識も豊富な椿と他の人なら見逃してしまいがちな些細なことに気がつく店員・梅本杏子が謎解きをしていく。同じように、『悩み相談、ときどき、謎解き?~占い師ミス・アンジェリカのいる街角~』の占い師ミス・アンジェリカこと田中花子も、父方の祖母が占い師だったせいか、ごくたまに降ってきたような言葉が口をついて出る。人よりちょっとだけ未来を予知したり誰かの居場所を特定することができるが、普段は暗くて不気味な普通のOL。こんなふうに、プロの探偵でもないどこにでもいるような女性が謎を解くからこそ、身近に感じられる。

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 それに、古書店や喫茶店、和菓子屋やデパ地下に時計店や商店街、占いの館といった舞台となる場所、仕事の裏側を覗けたり、うんちくをたくさん知れるのも魅力のひとつだ。そのうんちくが謎解きにも絡んでくるので、古書や珈琲、和菓子にまで興味の幅が広がる。

 そして、主に女性がメインとなって謎解きをしていくので自然と彼女たちを巡る恋愛も繰り広げられる。『ビブリア古書堂の事件手帖』の栞子は、たまたま店を訪れて一緒に働くことになった大輔といい雰囲気になるし、『思い出のとき修理します』で時計店を営む秀司だって、客として訪れた明里と互いに惹かれあったりする。さらに『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』では、ちょっぴり三角関係的なハラハラも楽しめるのだ。もちろん、『悩み相談、ときどき、謎解き?~占い師ミス・アンジェリカのいる街角~』にも恋愛要素はたっぷり。それまで人と接することを避けてきた花子が、27歳にして初めて恋した相手はアンジェリカのお店の裏で手作りのキャンドルを売る青年・誠司。彼への思いに気づいて変わっていく花子を見るのも楽しい。ミステリーだけじゃなく、ラブストーリーまで楽しめちゃうなんてとってもお得!

 また、本来欧米でのコージー・ミステリーには豪邸や上流階級の人々が欠かせないそうだが、日本を舞台にしたらさすがにそうそう豪邸なんて登場しない。その代わり、主人公たちは1本裏道に入ったような、知る人ぞ知る隠れ家的な場所に住んでいる人が多いのだ。そこに迷い込んできた人が悩みを相談するから、悩みの内容はほぼ初対面の相手でも、世間話のノリで気軽に話せるようなもの。あるいは、それほど親しくないからこそ相談できる内容がほとんどだ。『悩み相談、ときどき、謎解き?~占い師ミス・アンジェリカのいる街角~』での相談内容も、亡くなった祖母が送るはずだった手紙の相手を占ってほしい。突然いなくなった親友の居場所を教えて。どうやら最近妻が何か隠し事をしているようで……といったもの。決して新聞やニュースで報道されるような、大きなことではないのだ。

 ミステリーを読んでみたいけど、本格的なものはなんだか難しそう。人がどんどん死んでいくのはちょっと……。そういった人が、珈琲でも飲みながらゆったりと気負わずに読める作品。それがコージー・ミステリーなのだ。

 時間に追われてゆっくり本を読む時間も取れない人にとって、どこでも読める文庫で、気分転換になるようなライトな本。それでいて、1冊でうんちく、ラブストーリー、ミステリーといったさまざまな要素を楽しむことができるコージー・ミステリーは、まさにうってつけ。仕事に追われる中でも気軽に本を読みたいという人がいる限り、コージー・ミステリーブームはこれからも続くだろう。