誰もが知ってる歴史の裏に潜む、人間ドラマを描いた傑作コミック

マンガ

更新日:2013/3/6

 数あるマンガのなかでも根強い人気を誇り、名作の宝庫なのが“歴史ファンタジー”のジャンルだ。近年では、『テルマエ・ロマエ』や『仁―JIN―』など大ヒット作品が続々と生まれたことが記憶に新しい。ふだんはマンガを読まない、あるいは歴史アレルギーなのに、手に取ってみたらハマってしまった。そんな読者も多いはずだ。

 『ダ・ヴィンチ』4月号では、そんな歴史ファンタジーのなかでも、読者の前提知識を逆手にとった、作者オリジナルの設定が際立つ作品をピックアップし特集を組んでいる。

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 たとえば『テルマエ・ロマエ』は誰もが身近に感じている“風呂”を、『仁―JIN―』はもっともよく知られる幕末の歴史を“再発見”した作品といえる。

 今回『ダ・ヴィンチ』がおすすめするのはまず、13世紀、モンゴルの拡大が進む中国を舞台にした『シュトヘル』(伊藤 悠)。モンゴルに従う一族の皇子・ユルールが、滅びゆく文字を救うために悪霊(シュトヘル)というストーリー。

 『夢の雫、黄金(きん)の鳥籠』(篠原千絵)はオスマン帝国皇帝スレイマン1世の后、ヒュッレムの生涯を描いた大河ロマン。権謀術数が渦巻くハレム(後宮)が描かれている。

 そして11世紀の西欧が舞台の『ヴィンランド・サガ』(幸村 誠)は、本当の戦士とは何かを描いた中世西欧叙事詩だ。

 歴史ファンタジーマンガの面白さの第一は、世界観の素晴らしさにあるだろう。

 滅亡した小国・西夏とは? スレイマン大帝のハレムって? ヴァイキングの男たちって? 歴史の教科書には載っていない。上の3作品がスポットを当てているのは、一般的な歴史の陰となった部分だ。絶妙に史実を下敷きにしつつ、そこには作者独自の豊かな発想と発見が生かされている。私たちは、再構築された世界観の完成度に驚き、一気に引き込まれる。

 一方で、「歴史興味ないし」という読者もいるだろう。しかし、歴史ファンタジーマンガはオタク的趣味を追求するものではない。その世界に生きる人間の有り様、それが最大のテーマなのだ。

 国の文化と人々の思いを西夏文字が遺してくれると信じるユルールとシュトヘル。スレイマンとイブラヒムへの愛に引き裂かれながら懸命にハレムで生きるヒュッレム。トルフィンの唯一の望みは、戦場で重ねた殺戮と破壊を償い、生と創造で補うことだ。主人公は皆、必死の思いを抱えて生きている。その情熱的で愛情深い生き方は、私たちの心を強く揺さぶる。

 精緻な世界観の中に普遍的な人間ドラマを見出す。それが歴史再発見の真の意味であり、歴史ファンタジーマンガの醍醐味ではないかと思う。

(『ダ・ヴィンチ』4月号「コミックダ・ヴィンチ」構成・文=松井美緒より)