暴力団やサラ金もいる!?謎に満ちた北朝鮮が丸ハダカに

海外

更新日:2014/1/29

 長距離弾道ミサイルの発射実験に続き、3度目の核実験強行で国際社会から非難される北朝鮮。しかし、悪びれる様子もなく、NBAの元スター選手デニス・ロッドマンとバスケット観戦をする金正恩第一書記の映像がニュースで流れたりして、そのギャップに首をかしげる人も少なくないだろう。深刻な食糧不足でありながら国際社会から孤立し、このまま体制維持ができるのだろうかと疑問がわく。Facebookが発端とされるエジプト革命やリビアのカダフィ政権崩壊を見ても明らかなように、独裁政権がこのまま続くとも思えない。

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 それにしても隣国でありながら謎だらけの国、北朝鮮。時折ニュースで目にする住民の映像は、軍それにしても隣国でありながら謎だらけの国、北朝鮮。時折ニュースで目にする住民の映像は、軍事パレードやマスゲームといった全体主義を思わせるものが多く、ひとりひとりの素顔は見えてこない。本当のところ、人々の暮らしはどうなっているのだろう?

ハダカの北朝鮮』(呉 小元/新潮社)は、北朝鮮の人々の暮らしや管理の構造など私たちの疑問に答え、謎の国家を丸裸にする内容だ。著者の呉氏は、日本で生まれ10代で北朝鮮に帰国し、その後、韓国に亡命した。9万3千人余の在日コリアンが「帰国事業」によって当時「地上の楽園」と宣伝されていた北朝鮮に帰国したが、実際に待っていたのは低レベルの衣食住と帰国者をスパイ呼ばわりする迫害。政治犯として収容所に送られた帰国者は推定1万3000人におよぶという。著者も秘密警察の国家保衛部に呼び出され、帰国者を監視する「秘密情報員」になるよう強要された。

 こうした住民同士の相互監視システムによって管理されていることは、ある程度、理解していたが、実際に知るそのシステムはあまりに巧妙で強固だ。なにしろ金日成主席の肖像画が飾られた部屋に下着を干していただけで、密告されて片田舎に飛ばされたりするのである。

 これだけ自由が制限された社会で、人々はどこで息抜きをしているのだろうか。ユニークなのが本書の途中途中にある「北朝鮮Q&A」だ。暴力団はいるのか? サラ金はあるのか? 夜はどのように過ごすのか? といった素朴な疑問に答えてくれる。

 暴力団に近い組織としては「マンナニ」という組織が存在したそうだが、金正日の恐怖政治でほとんどが壊滅。しかし、90年代の大飢饉以降、復活しはじめたという。同時期にヤミ金も増えた。地方幹部や秘密警察などの女房らが元締めをしていて、返済しないと政治的なあらぬ嫌疑をかけられるというからたちが悪い。日本のように軽く一杯できる店はごく少なく、夜は家でトランプや花札の賭け事を楽しむ人が多いそうだ。お酒はドングリを原料とした密造酒が手に入りやすい。ただし精製が不十分なため、すさまじい頭痛を伴う二日酔いに見舞われるそうだ。

 また、北朝鮮の住民は海外の情報を得ているのだろうか。誰もがインターネットにアクセスできれば、エジプト革命のような民衆の蜂起も期待できるが、今のところ一部企業のみが接続を許可され、しかもアクセスできるサイトも制限されている。携帯電話は加入数が100万を超えているそうだが、ネットにアクセスすることはできず、通話とSNS機能のみ。ただし、海外情報がまったく入ってこないわけでもなく、中国との国境からは韓国ドラマやニュース番組の入ったDVDやUSBメモリーが大量に流入しているそうだ。こうした海外番組に触れることがきっかけとなり、人々が立ち上がる日を著者は夢見る。

 食糧不足、電力不足で生活は過酷、しかも密告社会で自由は制限され、娯楽も乏しい……。そんなしょっぱい状況なのに、朝鮮中央テレビは2011年に「北朝鮮が世界で幸福指数第2位になった」と伝えたそうだ。ちなみに1位は気を使ってか、中国が1位。そんなわけないだろ! と世界中の人がブーイングするはず。「王様はハダカだ」と声を上げるべきではないだろうか。

文=大寺 明