漫画家と編集者が語る電子書籍の未来は? 『第6回CMT CONNECTION』レポート

マンガ・アニメ

2013/3/8

 2月27日に「第6回 CMT CONNECTION 電子出版が創るコンテンツの未来 ~クリエイター・エージェント・プラットフォームの最新動向~」というイベントが行われた。このイベントは、経済産業省関東経済産業局の補助事業として、公益財団法人ユニジャパン主催のもので、クリエイターや編集者などの視点から、今大きな変化の中にある電子出版について語り合うことを目的に開催された。

 デジタルコンテンツやSNSに詳しいジャーリストのまつもとあつし氏をモデレーターとして、ゲストに株式会社Jコミの代表で漫画家の赤松 健氏、株式会社コルクの代表取締役社長で小山宙哉安野モヨコといった漫画家のエージェントをつとめる佐渡島庸平氏の2人を迎えて、「電子出版プラットフォームでビジネスがどう変わるか?」といったテーマでトークセッションが行われた。そして、展開は冒頭から2人の意見が真正面からぶつかるものとなった。

 「本音を言うと、電子書籍なんて売れっこないと思っている」と語ったのは赤松氏。「現在、電子書籍を購入する仕組みは、データを閲覧する権利を買っているだけで、本そのものを所有するわけではない。巻数の多い長編作品やアダルト作品はまだ売れる余地はあるが、いつ閲覧ができなくなるか分からなくなるような電子データに高い金銭をつぎこむことになるとは考えにくい」と指摘した。

 対して佐渡島氏は、「Yahoo! オークションで書籍を購入していた人たちが、今はAmazonのマーケットプレイスに移行しつつある」と語り、「人は本を買うときには値段だけではく、便利さで購入している」と指摘。「現在、電子書籍にはまだまだ不便な点は多々あるが、それはこれから便利になっていくし、大きな変化が起きるのは4~5年後になるだろう」と語った。

 続く「電子書籍のプラットフォームの変化が作品にどのような影響を及ぼすのか」といった話題についても、両者の意見に違いがみられた。赤松氏は、「近年のスマートフォンやタブレットの普及により電子書籍の閲覧方法にも多様化が生まれたことで縦スクロールでの閲覧などが浸透してきてもいるが、日本の見開きページで閲覧させる演出へのこだわりは個人的には守りたいものだ」と主張。かつて海外に自分の作品が輸出された際、勝手にページが左右反転の左綴じになった上に内容を改変されたこともあり、これから海外に向けて電子書籍を発進していく際にも、海外基準に合わせていくのではなく、日本の漫画文化そのものの伝統もあわせて発進していくべきであると語った。

 一方の佐渡島氏は、漫画作品の閲覧演出の変化については特にこだわっておらず、「作家がやりやすい方式で作品を作ればいい」と語り、「そもそも10年後も同じプラットフォームが活躍しているかわからない」と主張。ただし、次々とプラットフォームが変化している現在、それに合わせて無理に漫画の表現技法を変える必要はないと話した。また、海外へ商品を輸出する際は、コンテンツをいきなりそのまま出したところで他国のコンテンツリストの下位に組み込まれるだけなので、他の浸透したコンテンツとのつなぎあわせによって広く浸透させていくことが肝心だと述べた。

 さらに興味深かったのは、「電子書籍時代の新人のデビューの方法」でのやりとりだった。赤松氏は、電子書籍時代では有名な人ばかりが優位にたち新人がさらに不利になるのではないかと厳しい見解を突きつけ、読者が新人を知る術が現状のプラットフォームの中にはないことを指摘した。それについて佐渡島氏は、「講談社にいた頃、月間研究費を新人育成の出費に割り当てていたが、今ではそれが厳しくなり、出版社が出版不況でますます育成に手間をかけることができなくなっている」という現状を語った上で、自身の経営するコルクではそうした新人育成の役割を担おうとしていることを話した。「そのためにクリエイターをサポートする人数を増やし、漫画家側が編集者を選べてしっかりと打ち合わせができるサポート体制を構築していきたい」と語ると、赤松氏は「それは素晴らしいですけど、(経営の方は)大丈夫ですか?(笑)」と突っ込みながら、実現できれば理想的であるとも話した。

 このように、赤松氏と佐渡島氏のやりとりは続き、佐渡島氏の経営するコルクについて、深く踏み込んだ質問が飛び交いながらセッションは進んだ。それぞれの意見の違いには、クリエイターと編集者の視点の違いがあらわれていたと言っていいだろう。後半ではブクログの代表取締役社長 吉田健吾氏、ドワンゴのニコニコ事業部企画開発部部長 伴 龍一郎氏、E★エブリスタの代表取締役社長 池上真之氏、GADGET代表取締役 浅見 敬氏といったプラットフォーム運営企業の代表者がプレゼンテーションを行い、登壇者、参加者を交えた交流会が行われた。そこではクリエイター、編集者、プラットフォーム管理者が普段の垣根を越えて積極的に意見を交わして新たな関係性を生み出そうとしており、このイベントの趣旨が目に見えるかたちに結実していた。電子書籍のプラットフォームが急速に進歩し、配信されるコンテンツも増加し続けている昨今、クリエイターと編集者がどのように時代に切り開いていくのか、あるいは既存のシステムを受け継いでいくのか、それぞれの業界のそれぞれの意見に耳を傾けながら、注目していきたい。