アナタの住む町は大丈夫?……「地名」に残された過去の災害

暮らし

公開日:2013/3/16

 東日本大震災以降、防災意識が高まっている。地球上で起こる地震の10%が日本およびその周辺で発生しているとされるこの地震大国に暮らす以上、避けては通れない課題だ。防災科学技術研究所が2012年10月に発表した最新分析データによると、日本の人口の3割にあたる3800万人が、地震の際に揺れやすい軟弱な地盤の上に居住しているという。

 いま自分が暮らしているこの町は大丈夫だろうか?

advertisement

 そこで読んでおきたいのが『地名は災害を警告する―由来を知り わが身を守る』(遠藤宏之/技術評論社)だ。日本は昔から震災や津波、洪水の水害に見舞われてきたわけだが、自然災害は土地の性質に依存し、歴史的に見ても同じ場所で繰り返し起きている。そうした過去の災害の記憶は地名に残されていることが多いという。

 たとえば川をはさんで同じ町名があった場合、それは洪水によって分断された水害地域だったことがわかる。また、「梅」が付く地名は、ほとんどの場合、「埋メ」から来ていて、自然災害によって土砂で埋まった土地か、人工的に埋められた土地を意味する。大阪「梅田」の場合、元々は湿地帯を埋め立てた土地であり、軟弱な地盤ということがわかる。

 東日本大震災による福島原発事故も、東京電力の原発関係者は「想定外」だったと言うが、福島第一原発がある福島県双葉郡の北側に位置する「浪江町」という地名は、「浪」はもちろんのこと、「江」は海が陸地に入り組んだ地形を表し、津波被害の危険性が予測できたはずだと著者は指摘する。さらに言えば、福島第二原発のある「波倉」という地名も波によってえぐられた場所(「くら」は激しく浸食された地形を意味する)も津波地名なのだという。

 こうした津波の被災経験が地名に残されている例はいくつもあるそうだ。たとえば、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた釜石市や塩竈市の「カマ」とは、古語の「噛マ」に通じ、津波により湾曲型に侵食された地形を意味する。三陸は50年程度の短い周期で津波に襲われている歴史があり、1611年の慶長三陸地震では、津波が内陸部まで押し寄せ、甚大な被害を出した。

 関東では鎌倉の「カマ」「クラ」が同様の意味合いであり、過去に繰り返し津波の被害にあっている。1923年の関東大震災では、6~8メートルの津波が押し寄せ、300人が行方不明となったという。現在の鎌倉大仏が剥き出しになっているのは、繰り返しの津波により大仏殿が流出したことによるのだ。

 本書ではこうした災害地名リストが65ページに渡って掲載されているので、土地購入を考えている人や今住んでいる土地の安全が気になる人はチェックしてみるといいだろう。ただし、災害地名に該当しないからといって、ただちに安心することはできない。

 なぜなら大規模な宅地造成によって形成された新興住宅地などは、売りやすくするために後から付けられた「イメージ地名」であることが多く、その土地の本質を覆い隠してしまっているからだ。

 たとえば自由が丘は、小高い丘の上に街が広がっているのかと思いきや、実際は駅も商業地域も谷底の地形だ。山の手をイメージさせる「○○ケ丘」「○○台」をはじめ、「緑」や「青」といったさわやかな自然をイメージさせる新興住宅地の地名は、典型的なイメージ地名であることが多く、実際は谷底を造成した土地だったりする。つまり、軟弱な地盤ということであり、全国的に見ても地滑りや液状化などの被害が数多く報告されている。

 本書はむやみに不安をあおっているわけではない。昨年8月、内閣府が南海トラフ巨大地震が起きた場合の被害想定を公表した。最悪のケースで死者数は約32万人(津波被害が7割)とされたが、最大限の防災対策がなされた場合、死者数は約6万1000人にまで減らせると見込んでいる。本書には、地名から先人の経験を読みとり、災害に備えようというメッセージが込められているのだ。

文=大寺 明