秋元 康の戦略は「戦略がない」こと、企画の原点は「根拠のない自信」

仕事術

2013/3/18

 作詞シングルの総売上枚数が6859.1万枚に達し、故・阿久悠の記録を塗り替え、「作詞家売上日本一」の金字塔を打ち立てた秋元 康。作詞シングル506作中の最多売上は、AKB48の26thシングル『真夏のSounds good!』の累計182.2万枚で、総売上6859.1万枚のうち、AKB48のシングルが約3割を占めている。

 作詞家として稀代のヒットメーカーであるばかりでなく、秋元 康は高校生の頃から放送作家としてメディアの世界で活躍し、AKB48をゼロから立ち上げた総合プロデューサーでもある。とんねるずやおニャン子クラブで一時代を築いた過去の栄光に留まらず、現在進行形でムーブメントを仕掛ける手腕は突出している。AKB48ファンでなくとも、彼の考え方や戦略に学ぶことは多そうだ。

 そこで秋元 康の仕事術に迫ったのが、78歳にしてAKB48ファンであることを公言する田原総一朗。『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(秋元 康、田原総一朗/アスコム)は、秋元 康の哲学やビジネスノウハウが語られ、AKB48ファンはもちろん、ビジネスパーソンにも示唆に富んだ内容となっている。

 さすがに『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)の司会をつとめる田原総一朗だけあって、読者が知りたいことを鋭く質問。それに対する秋元 康の答えも目からウロコの連続だ。ヒットを生み出すコツを「時代と合気道をしなければいけないんです」と話すなど、抽象的な感覚を別の言葉に変換して伝えるコピーセンスは、さすが「作詞家売上日本一」とうならせる。

 AKB48の成功は秋元 康の戦略どおり、といった印象を持たれている人も多いだろう。しかし、本書で語られるのは意外なことに「戦略がない」という戦略だ。

 はじめてのAKB48のステージでは、客はわずか7人。しかし、秋元 康は動じなかった。企画の原点に「根拠のない自信」があったのだ。根拠がなければ、マーケティング重視のビジネス社会では、即座に却下の対象となりがちだ。しかし、秋元 康は「根拠を求めようとするから、みんな同じところへ行ってしまう」のだと話す。そこで根拠のかわりになるのが、自分も大衆のひとりとして、本当におもしろいと思えるかどうか、である。

 「戦略がない」とは、予定調和を拒むことでもある。エンターテインメントにとって予定調和が一番つまらないと秋元 康は言う。コンテンツ制作では、まずインターネット、ゲーム、BSなど「皿(媒体)」があってから料理を作ろうとするが、まずは美味しい料理を作るのが先で、その後でどの皿に盛りつけようと考えるのが順序だと考えている。皿に合わせようとして作ると、必ず予定調和になっていくからだ。

 AKB48がまさにこの考え方から生まれた。最初はどこに出す予定もなく、ただ自分がおもしろいと思って作ったものが、今ではさまざまな皿(媒体)に乗り、世界にまで飛び立とうとしている。予定調和では描けない夢だろう。

 また、雑談の中にこそ企画のヒントがあると秋元 康は言う。ホワイトボードの前でどのタレントを並べて、何をやらせるかと話し合うよりも、まずは何も決めずに雑談をして、その中からおもしろいことを発見してゆくのだ。

 秋元 康のもとには、映画の配給収入やテレビ視聴率など数字的な結果が伝えられる。しかし、実感がわかずもの足りない。リアルな体感を伴わないからだ。それに対し、AKB48は「バイクを走らせているかのように、風がビュービュー吹いて当たる」感覚なのだという。車で時速80キロを出しても何も感じないが、バイクでは強い風を感じる。たとえ観客が80人であっても、生の声援の方がずっとリアルでおもしろい。

 AKB48をプロデュースする際に秋元 康が意識していることは、すべてを演出するのではなく、彼女たちのドキュメンタリーなのだということ。予定調和ではなく、どうなるか先が読めないから、そこに熱気や感動が生まれるのだろう。本書を読むと、AKB48現象の熱気がじんじん伝わってきて、田原総一朗が魅入られていった理由がとても納得できる。

文=大寺 明