おひとりさまに在宅死は可能か?

社会

更新日:2013/3/19

 2012年10月に、41歳という若さで急逝した流通ジャーナリストの金子哲雄さん。最後の著書となった『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(小学館)には余命宣言された後の葛藤や苦しみと共に、生前葬など「死を迎えるための準備」について書かれている。その中で明かされたのは、自宅で最期を迎える「在宅死」を希望したこと。終末期に住み慣れた我が家で、極力普段通りの生活に近い形で死を迎える「在宅死」は“理想の最期”として近年注目されている。

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 だが実際、「在宅死」を迎えるにはどんな条件や環境が必要なのだろうか。また、家族がいない“おひとりさま”や、家族が遠方に離れている人の「在宅ひとり死」は可能なのだろうか。

 『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』(上野千鶴子、小笠原文雄/朝日新聞出版)によると、家族が近くにいようがいまいが、認知症でも末期のがんでも老衰でも、大抵の場合は「在宅ひとり死」は可能なのだとか。日本在宅ホスピス協会会長・小笠原文雄医師によると、そのために最低限必要なのは「痛みのコントロール」、介護チームと連携して「暮らしが支えられること」、「患者さん本人の意思を家族や親族が受け入れ、それがかなえられるような協力を得ること」の3つだけ。本書には多くの人が抱える「在宅ひとり死」への不安は、医学や人的ネットワーク、システムで解消されることが具体的に書かれている。

 例えば、末期がんを患って自宅でひとり療養しているときに、痛みや死を前にした絶望感で夜に眠れないということは想像に難くない。しかしその場合も、精神安定剤を使ってぐっすり眠り、痛みを感じないようにする「夜間セデーション」という方法があり、ひとりでも「夜」に怯えずに過ごせるそう。

 また、発作や体調の急変で倒れた場合でも、「ボタンを押せばすぐに訪問介護ステーションや地域包括支援センターにつながる」緊急コールシステムや、「タッチパネルに触れるだけで24時間いつでも訪問介護ステーションにつながるテレビ電話システム」など、最先端の技術でフォローできるという。

 一番の心配ごとであるお金の問題も、病状や症状によって異なるものの、小笠原医師によると「介護保険制度の枠内でまかなうようにすることも充分可能」。より充実した生活を送るために不足分を補う金額も「100万円(がんの場合は30万円)も用意しておけば」充分だという。

 「在宅ひとり死」のための条件や環境はいかようにでも対応できるが、実現するために一番必要なのは家族の同意を得ることだそう。親は在宅死を望んでも、家族は「親に介護が必要になったら、子が同居してみるべき」という考えに縛られ、どちらも幸せにならないケースも多いのだとか。小笠原医師は「家族といい関係をつくっておくか、あるいは家族がほったらかしにしておいてくれる関係をつくっておく」ことが大切だと話す。「ひとり暮らしでひとりの状態で死に、誰にも発見されずに放っておかれた」孤独死よりも、「周りに誰かがいても誰とも心が通わすに死んでいく」孤独死のほうが、本人にとっても悔やまれる最期になるのではないだろうか。

 自分がどういった“最期”を迎えたいのか―。家族の心配を取り除き、自分の望む最期を迎えるために「死」について徹底的に話し合うことが「在宅ひとり死」への第一歩のようだ。