就職活動を通して分かるSNSの問題点とは?

ビジネス

2013/3/19

何者/朝井リョウ

 2014年度卒業予定の学生による就職活動も、3月に入りいよいよ本格化しはじめている。そんな中、学生たちの間で、「ソー活」という言葉が話題となっているのをご存知だろうか?

 ソー活というのは、twitterやFacebookといったソーシャルネットワークサービスを駆使した就職活動のこと。就職情報サイトのマイナビが調査した2014年卒の「大学生のライフスタイル調査」によると、学生のスマートフォンの所有率は83.9%。よく利用するSNSはFacebook、LINE、Twitterで友人とLINEや携帯メールで連絡を取り合いながら就職活動を続けているという。

 もちろん、この「ソー活」にも様々な問題がある。最近では企業の採用担当が学生のSNSをチェックして不採用にしたというニュースがネット上で話題となるなど、SNSがらみのトラブルも多い。こうした問題の対策のために、学生側も企業側に閲覧してもらうためのアカウントと、本音を公開することのできるアカウントを使い分けているという現状もあり、問題はより複雑化している。中にはそうした配慮自体に疲弊してしまったり、周りとの人間関係をより複雑にしてしまうという声もある。そもそもは、相手に自分のことを知ってもらうのが便利だからこそ始まった「ソー活」。一体どうしてこのような問題が起きてしまうのか?

 ダ・ヴィンチ電子ナビでは、こうした問題について考えるために、twitter上で本の感想や意見をやりとりするイベント、twitter読書会を、第148回直木賞を受賞した朝井リョウ『何者』を取り上げ開催した。『何者』は、就職活動に立ち向かう学生たちを描いた作品。しかし、この小説は単に学生の苦しみや本音を明かすだけの物語ではない。それぞれの登場人物が先述のSNSを使った就職活動をしており、その公開された書き込みが小説の合間に書き込まれているのだ。さらに、そうした書き込みも後半になるとある仕掛けが用意されており、読者はそれによって、SNSと現実との落差というものをまざまざと見せつけられる。直木賞選考委員の桐野夏生氏は選評にて「シュウカツで、お前は何者だ、と問われることだけでなく、この作品はネット社会における無間地獄を描いている」とコメントしている。

 twitter読書会では、就職活動をはじめる大学生や就活浪人生などが多く参加し、就職活動時期の苦悩や思い出を語りながら、「(朝井リョウの『何者』は)読んでいて辛い」、「あの頃を思い出して胸が苦しくなった」「これを読んで就活をしたくなくなりました」といった意見がつぶやかれた。たしかに記者自身も、就職活動時期には誕生日に不採用通知が6通送られてきたことや、twitter等で盛り上がる就職活動の話題についていけずネットを閲覧しなくなったことなど、小説を読んで苦い過去を思い出してしまうほど、物語は生々しく迫力に満ちた作品だった。登場人物のtwitterのアカウントの自己紹介欄や、その書き込み、さらには現実での会話なども、あたかも友人と話しているかのような現実感がある。

 SNSで活動をするには、自分を相手に「何者」であると思わせたいのかを常に考えながら書き込まなくてはならない。そこで自分に見合うキャラクターをつくりあげ、わかりやすく人に自分を紹介できるかが鍵となっている。しかし、生きている上でも様々に心境が変化していく中で、ひとつのアカウントのキャラクターを一貫して演出していくのはとても難しい。結局、現実の自分が、SNS上の自分に合わせなくてはならなくなったり、本当の自分が「何者」なのかわからなくなったりするといったことが、先述の「ソー活」の問題の原因となっているところだろう。朝井リョウの『何者』はそうした部分を就職活動というものをテーマにして鋭くえぐりだしたが、何もこれは就職活動に限ったことではない。普段SNSを使う私たちにとっても、ネットの中の自分と現実の自分との距離感の取り方は誰しもが考えたことのある問題のはずだ。

 ネット上で簡単にSNSに自分自身をさらけ出すことが簡単になった今だからこそ、どこまで自分を演出するのかを考えなくては、様々なトラブルに巻き込まれることになりかねない。『何者』を読んで、もう一度、ネットの中での自分の在り方を考えてみるのはいかがだろうか?

文=ゆりいか