「ジョブズのボーダーレスな視点は、古代ローマ人っぽいんです」 ヤマザキマリが世界を変えた男を描く! 「Kiss」新連載スタート直前&直撃インタビュー

ピックアップ

更新日:2013/8/13

――ジョブズは心底、頑固者。ひねくれ者ですよね。

ヤマザキ 孤独な人でもありますよね。この人は多分、人間関係の中で、人柄ってところまで入り込んできそうになるとガードを張るタイプで、急に相手のことを突っぱねて、「誰も俺のことを理解してくれない」とか言う。それをやっちゃうのは、孤独な人の証拠。どうにもならない孤独を抱えて生きている、その孤独感は漫画でも出したいです。妙な人なつっこさもあるじゃないですか。ホントに孤独な人って、引きこもるよりも外面よくなるし、いろんな人と仲良くなっていくものなんですよ。

――ジョブズの孤独は、どこからやってくるのでしょうか?

advertisement

ヤマザキ やっぱり、幼少期の体験はものすごく大きいですよね。自分が養子であることを幼い時に養父母に知らされて、自分の親はどうしちゃったんだろうか、自分ってなんなんだろう、必要のない存在なんだろうか。そこで孤独に対する免疫ができちゃってるんで、嫌われたってなんぼのもんよ、どうせ一人なんだからって思ってしまっている。そんな中で、自分の生き甲斐として見出せたのが、電子機器だった。ウォズとAppleを創業する前、悩み多き少年だった頃のジョブズの姿は、漫画でもしっかり描きたいと思います。その時代があるからこそ、どんなに彼がへんちくりんな行動をしていても、「ジョブズは子供の頃大変だったからなぁ」と溜飲を下げられますし(笑)。

――ウォズとの蜜月関係が解消してから、真の快進撃が始まります。一度はCEOを辞めさせられますが、戻ってきてからはiMac、iPod、iPhone、iPadと、世界を変えるイノベーティブな製品を次々発表しました。

ヤマザキ 多元的な視野という意味では、素晴らしいですよ。ふと直観が来た時に「これだ!」と。次から次へと、あれしてこれして挫折して、今度はこれ次はこれ。じっとしてられない。この人には、アメリカ人が持っているピューリタン的な、キリスト教的なモラルがないじゃないですか。その荒唐無稽さが、古代ローマ人っぽい(笑)。ジョブズの言葉で一番好きなのは、「人間は左脳と右脳の境界線にいるのが一番面白い」。右か左に、どっちか振り切っちゃった方がラクなんですよ。でも、常にデジタルとアナログの間、荒唐無稽なアートとサイエンスビジネスの間にいる。そのボーダーレスさに、私は一番惹かれるんです。

「コミックライター」ではなく「グラフィックノベリスト」として

――お話を伺っていると、ジョブズとルシウスがどんどん重なって見えてきました。

ヤマザキ 世界中のどんな国にもどんな時代にも、こういう人がいたんだってことですよね。きっと私が漫画で描き続けていくのは、こういう人間なんですよ、ずっとね。ちょっと変わった人間に私は興味があるんです。

――振り返ってみると、先ごろ完全版が刊行された連載デビュー作『ルミマヤとその周辺』(講談社)もそうでしたよね? 「その周辺」の人々は、変な人が多かったりして。

ヤマザキ そうですね(笑)。ヘンな人は、描き応えがあるんですよ。描いてみたいし、描いたものを私自身が読んでみたいと思う。第一、自分も完璧に変な人ですから。

――本国アメリカでも、読まれたいと思いませんか?

ヤマザキ その可能性を考えながら描こうと思っています。ジョブズは禅に傾倒していたわけですけれども、たまたま私も日本人、アジア人ですし、アメリカ人じゃなくて私がコミカライズすることには意味があるんじゃないかなと。私自身がアメリカで暮らしてきた経験も、当然入り込んでくると思いますし。なんにせよ、背景までびっしりリアルに描き込むような、がしゃがしゃ情報量の多い漫画は描きたくないですね。Appleの製品だって、みんな持ってるし、知ってるでしょう。そこの部分を丁寧に描くことに、私がこだわる必要はないと思っています。日本人的な感性をはたらかせた、行間のある、奥行きのある人間模様を描きたいです。

――いわゆるアメコミとは、まったく異なる漫画になることは間違いなさそうですね。

ヤマザキ アメコミを描く人は、あちらでは「コミックライター」と言うそうなんですよ。漫画は、「グラフィックノベリスト」。ジャンルが違うんですよね。私はできればコミックライターの職人性を持ったグラフィックノベリストとして、頑張りたいです。とりあえず、1話40ページ。他の連載もあるしいっぱいいっぱいですけど、寝なければいいだけの話なんで(笑)。何よりもまず私自身が読んでみたいんですよ。私が描いたジョブズという人を。

取材・文=吉田大助

 

『Kiss』(講談社)

2013年3月25日発売/定価500円

 

ヤマザキさんが描く“世界を変えた男”

3月25日(月)発売の「Kiss」より
ヤマザキマリさんの
新連載『スティーブ・ジョブズ
がいよいよスタートします!
お見逃しなく!