2024年本屋大賞『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈さんが決意「本屋大賞作家の看板を背負っていく」

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/15

東京・明治記念館 富士の間で10日、読書ファン注目の「2024年本屋大賞」発表会が行われた。売り場からベストセラーを作る――。「本屋大賞」は、オンライン書店を含む新刊書店で働く書店員が自身で薦めたい、売りたいと思った本を選び、投票によって表彰される文学賞だ。

21回目を数える今回は、ノミネート10作品から宮島未奈氏による青春小説『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)が大賞を獲得。「翻訳小説部門」「発掘部門」の受賞作も発表された会場は、受賞者や出版関係者の笑顔と熱気に満ちていた。

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■翻訳小説部門『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』著者・ファン・ボルム氏が述べた執筆当時の「願い」

司会者による趣旨説明。主催者、来賓の挨拶を経て「翻訳小説部門」の受賞作を発表。著者のファン・ボルム氏、翻訳者の牧野美加氏がそろって登壇した。

2024年本屋大賞
翻訳小説部門受賞者で初の登壇となったファン・ボルム氏

ファン・ボルム氏の小説『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(集英社)は、韓国・ソウル市内の住宅街にできた書店の新米女性書店主と、店に集う人々のささやかな日常を描いた作品。壇上ではファン・ボルム氏の思いを、寄り添う通訳者が伝えた。

日本語で感謝を伝えたファン・ボルム氏は「日本の映画からインスピレーション」を受けたと吐露。執筆時には「ひとつの願い」があり、読者が「最後のページを読み終えて、本を閉じたあと、気持ちがやすらいでほしい」と、作品に込めた思いを明かした。

人生について「頑張って生きているつもりでも、なぜか、同じ場所で足踏みしているような気分になること」がよくあると持論を述べ、「小説を通して、それが少しでも薄くなってほしいと願いました」と回想。

読者からは「登場人物を応援したくなる」という感想も寄せられたと明かし、「辛い世の中ですよね。そんなふうに自分を応援して、また、他の人たちと応援しあうような時間がたくさんあればいいなと思います」と、メッセージを届けた。

■発掘部門『プラスティック』著者・井上夢人氏「作家冥利につきる」と感謝

ジャンルや年代を超えた「発掘部門」で「超発掘本!」に選ばれたのは、井上夢人氏のミステリー小説『プラスティック』(講談社文庫)だ。作品では、フロッピーディスクに収められた54個の文書ファイルを発端とした、恐怖が描かれる。

2024年本屋大賞
調剤薬局と本屋がひとつになった「ページ薬局」の尼子慎太氏

推薦した「ページ薬局」の尼子慎太氏は「小説でしか体験できない感動や衝撃」を「存分に堪能させてくれる一冊」と力説。熱意あるプレゼンテーションで、来場者の心をつかんだ。

2024年本屋大賞
井上夢人氏

作品は1993年に雑誌『小説推理』(双葉社)で連載され、1994年に同社より初の単行本化。現在は講談社文庫から刊行されている。連載開始当時を振り返る作者の井上夢人氏は「31年前ですね。…ビックリ」とつぶやき、将来的な読者の中には「生まれていない方もいらっしゃるので、恐ろしいことです」とユニークに語ると、会場に笑い声が響いた。

井上夢人氏は、作家は「自分の書いたものを少しでも多くの方に読んでいただきたい、ということを希望しております」と語り、連載開始から31年で「超発掘本」に選ばれたのは「作家冥利につきる」と、感謝を伝えた。

■本屋大賞『成瀬は天下を取りにいく』著者・宮島未奈氏が覚悟「『本屋大賞作家』の看板を背負っていく」

2024年本屋大賞
大賞を受賞した宮島未奈氏(左)と凪良ゆう氏(右)

注目の「本屋大賞」発表では、2020年に『流浪の月』(東京創元社)、2023年に『汝、星のごとく』(講談社)で、2度の大賞を獲得した凪良ゆう氏がゲストプレゼンターを務めた。

書店員への感謝を述べた凪良ゆう氏は、減少傾向にある書店に対する作家としての「一番の恩返し」は「いい作品をまずお届けする」ことと持論を展開。書店へできることを考えるのが「本屋大賞をいただいた作家の責任」として、その「バトン」を、宮島未奈氏による青春小説『成瀬は天下を取りにいく』に託した。

滋賀県を舞台にした作品は、主人公の成瀬を中心とした6つの短編からなる連作短編集。登壇した宮島未奈氏は滋賀県の人びとへ「みなさん見てますか! 『成瀬〜』が本屋大賞を獲りました!」と威勢よくアピール。会場では盛大な拍手が響いた。

2024年本屋大賞
2024年本屋大賞
滋賀県の読者に手を振る宮島未奈氏

当日着用のユニフォームは「(登場人物の)成瀬と島崎が結成するお笑いコンビ『ゼゼカラ』のユニフォーム」と紹介。インタビューなどに備えて「自分で注文した」と明かすと来場者が微笑み、日常では「気づいてくださる方も増えてきて、すごく知名度が上がっているのを感じます」と喜んだ。

作品で「ゼゼカラ」がお笑い賞レース「M-1グランプリ」へ挑戦するストーリーになぞらえて「『M-1グランプリ』に優勝したコンビが、ずっと『M-1王者』と呼ばれる」ように、自身も「『本屋大賞作家』の看板を背負っていくと思うと、身が引き締まる思いです」と語った。

コロナ禍での小説家デビュー時は「こんなたくさんの人にお祝いしてもらう未来があった」とは思わなかったと回想し、「来年の『本屋大賞』発表までの1年間も、今の私には想像できないことがたくさん起こるんじゃないかと思っています」と期待を込めた。

のちの会見では、1月に刊行した続編『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)のさらに先を描く3作目も「書きはじめている」と報告。読者に向けて「老若男女みんなに読んでいただけるのが、作品の強みだと思っていますので。ぜひ、お友だちとか家族にすすめてほしい」と伝えた。

2024年本屋大賞

なお、「2024年本屋大賞」の上位10作品は以下のとおり。

1位『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈/新潮社)
2位『水車小屋のネネ』(津村記久子/毎日新聞出版)
3位『存在のすべてを』(塩田武士/朝日新聞出版)
4位『スピノザの診察室』(夏川草介/水鈴社)
5位『レーエンデ国物語』(多崎礼/講談社)
6位『黄色い家』(川上未映子/中央公論新社)
7位『リカバリー・カバヒコ』(青山美智子/光文社)
8位『星を編む』(凪良ゆう/講談社)
9位『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』(知念実希人/ライツ社)
10位『君が手にするはずだった黄金について』(小川哲/新潮社)

取材・文=カネコシュウヘイ 撮影=金澤正平

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