サラリーマンは“ジム”である!? 「ガンダム」に例えたキャリア本が話題

ビジネス

更新日:2013/3/29

 君は生き延びることができるか──?
 これは、人気アニメ『機動戦士ガンダム』において、各話予告の最後に必ず発せられたナレーター・永井一郎による決めゼリフである。

 その言葉を戦場ではなくビジネスの世界に当てはめ、サラリーマンが世の中の荒波を生き延びるための考え方について、1冊のキャリア本としたのが『僕たちはガンダムのジムである』(常見陽平/ヴィレッジブックス)だ。昨年秋に刊行されて話題となっている。

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 ガンダムの世界や登場人物をモデルにしたキャリア本としては、過去に『シャアに学ぶ“逆境”に克つ仕事術』(鈴木博毅/日本実業出版社)や『ガンダムに学ぶ経営学―宇宙世紀のマネジメント・ケーススタディ』(山口 亨/同友館)などが出ているが、本書はメインとなるネタ元が、脇役モビルスーツ(二足歩行のロボット兵器の呼び名)の量産機RGM-79(通称ジム)である点が異彩を放つ。その内容も、単なる自己啓発やキャリアアップの秘訣などとは異なっているのだ。

 一般的なキャリア本の場合、会社内の競争から勝ち上がるために必要なことが書かれているのが普通。ひと味違ったアイディアを生み出すための意識づけ、効率よく仕事を処理して空き時間を使ってスキルアップ、さらには人と接する際の立ち回りなど……。表現や着目点こそさまざまだが、目指しているのはその筋のスペシャリストになることだ。『機動戦士ガンダム』のモビルスーツにたとえるなら、他の追随を許さぬ高性能を誇る地球連邦軍のガンダム、もしくは敵対するジオン公国軍のエースパイロットであるシャア・アズナブルが操縦する、“通常の3倍のスピード”で知られるシャア専用ザクなどがふさわしいはずだ。

 ところが『僕たちはガンダムのジムである』では、ストーリー中では単体で活躍する場面が皆無である量産機のジムが、読者の立場として位置づけられている。これは、ある意味衝撃的なことだ。

 ちなみに、筆者の常見陽平は熱烈なガンダムファンで、本書ではジムの「最も印象的なシーン」として、最初に戦闘に参加したシーンを挙げている。このとき、ジムは敵方のシャアが操る水陸両用のモビルスーツ・ズゴックに果敢に挑むも、いとも簡単に土手っ腹を突き破られて敗北してしまう。このシーンはガンダムの中でもかなり有名で、皮肉なことに、ジムはこれですっかり「やられ役」として定着。以降は集団で登場するようになった。

 しかし、常見はそうしたガンダム世界こそ日本の企業社会の縮図であり、サラリーマンは「ガンダムではなく、ジムのようなもの」としている。ガンダムに限らず、実際の戦争においてもスーパー兵器ひとつで戦争の大局を変えられるほど甘くはなく、敵の拠点を陥落させるには、大部隊による制圧は不可欠なこと。それは世の中においても同様で、ガンダムのような特別な存在は数えるほどしかいないし、そんな人ばかりでは会社は動かない。むしろ、ジムのような多くの「普通の人」によって動いている、という考え方なのである。

 とはいえ、誰だって自分がスペシャルな存在=ガンダムのようになりたい、 と思うもの。だが、元リクリート社員である常見ならではの視点から、そもそも社員がそう思うこと自体、日本の企業社会のシステム的な問題であるとしている。自分はジムであると知った上で、ではどのように生きていけばいいのだろうか?

 本書では、企業に属し、いわゆる“歯車”として仕事をしていくということの価値や、自分の人生と会社との距離のとり方についても語られており、「ジムとして生きるのも悪くないかも」と思える部分もある。また読んでいくに従って「ジムにだってできることはいろいろある!」と熱くなるかもしれない。

 ちなみに、ジムは第1作の『機動戦士ガンダム』以降の続編において、ガンダムほどの性能には届かないものの、特別にカスタマイズされた機体や新しいモデルが続々登場している。そうした側面も内容上しっかり押さえることで、明るい未来を指し示しているところにも希望がもてる。

 また、たとえ話の多くにはガンダムに出てくるシーンや設定が引用されている。ガンダムを搭載している母艦・ホワイトベースの乗組員をさして、「まっさらな未経験者を組織に招き入れ、育成していくという流れは、まるで日本企業の新卒一括採用のようではないか」と述べたり、「学校はガンダムを生産していない。ジムを生産するのである」とし、「第一志望の大学や上位行に合格した学生はここで、「自分はデキる」「自分はいけている」という勘違いが起こってしまい、自分はジムではなく、ガンダムだと勘違いしていく」と考察されており、ガンダム好きにとっては思い出のシーンが蘇ってくるだろう。

文=キビタキビオ