アシスタントの過酷すぎる日常を描いたマンガが続々登場!

マンガ

更新日:2013/4/2

 3月8日に発売された『アシさん』(タアモ/小学館)もそんな作品のひとつ。少女マンガ家を目指し、マンガアシスタントをしながらがんばっている浪川睦が主人公で、彼女を通して、さまざまなマンガアシスタントの苦労が描かれている。たとえば、締切間近の作業場。徹夜なんて当たり前の世界では、発せられる会話も普通とは違う。睦がうつらうつらすると、雇用主のマンガ家先生からは「寝るな 今は寝かせられない!!」なんて言葉が飛んでくるし、職場の先輩なんて「あくびが出るうちは大丈夫ですね 脳が起きようとしてるってことです」とためになるんだかならないんだかのステキな情報をプレゼントしてくれるのだ。また、電車が動いていない時間にも呼び出されるなんてこともある、過酷な世界であることも描かれている。そんななか、睦はマンガ家になることを目指し、日々ひたむきに生きていく。

 じゃあ、給料もいいんじゃないと思った人は、まだ甘い。そんなことを教えてくれるのが『あしめし』(葛西りいち/小学館)だ。マンガアシスタント歴4年以上の筆者が、マンガアシスタントの日常を赤裸々に描いた作品で、先にも述べた給料の件も、この本によれば、非常にピンキリらしい。筆者が聞いた限りでは日給5千円のところもあれば、日給5万円のところもあるとか。『アシさん』でも、11時間働いて、貰った給料が3千円だったなんてエピソードもあるほどだ。ちなみに、『あしめし』の著者の給料はだいたい日給1万から1万3千円くらいで、絵の技術力があれば、さらに優遇されるらしい。

advertisement

 また、マンガアシスタントはときにマンガ家先生のムチャぶりにも耐えなければならない。『アシさん』では、忙しさのせいか、本来マンガ家先生の仕事であるはずの「ペン入れ」まで任され、動揺したりもするし、スクリーントーンの指示もマンガ家によって違うらしく、時には「ドーナツさん」「ファンスィー」「まさよし砂」などの暗号のような指示を解読しなければならないんだとか。『あしめし』でもそんなムチャぶりが描かれていて、テレビの時代劇を指差し「こんな感じで大合戦のシーン描いて」と言われるのは朝飯前。あるマンガ家先生のところでは「よし! 今日は英語だけで会話しよう!」なんて遊びにも付き合わされたんだとか。『マンガ家さんとアシスタントさんと』(ヒロユキ/スクウェア・エニックス)なんて、マンガ家先生が唐突に発した「おっぱい揉みたい」なんて言葉にも付き合わなければならないし、そのほかにもさまざまなセクハラ的言動に根気よく向かい合わなければいけない。じつに、じつに大変な仕事である。

 そんなに大変なら、マンガアシスタントなんてもの、やらなければいいのに。と思われる方もいるかもしれない。しかし、大変さというのはマンガアシスタントという仕事の一側面にすぎない。そう、マンガアシスタントには、この仕事がすばらしいものだと思える一面もあるのだ。たとえば、プロのマンガ家がいかにすごいのかということを間近で見られる。『アシさん』でもマンガ家先生のすごさは、ところどころに描かれているのだが、ここで例にとりあげるべき作品は他にある。それは『ブラック・ジャック創作秘話―手塚治虫の仕事場から』(宮崎 克、吉本浩二/秋田書店)だ。マンガの神様といわれ、アシスタント制度を最初にはじめたといわれる手塚治虫の生の姿を描いた作品で、当時のマンガアシスタントたちが見た手塚治虫のすごさがありありと描かれている。

 当時、デッドラインまで残り5日という状況で、8本の原稿を抱えていた手塚治虫。もうこれだけで、えらいことなのだが、このとき臨時のアシスタントでついたのが、かの松本零士。彼の話す、そのときの手塚治虫がものすごい。なんと、机に3枚の原稿を並べて、同時進行でそれぞれ別の作品を描きだしたというのだ。まさに神業である。

 また、こんな話もある。式典に呼ばれ、アメリカまで飛んだ手塚治虫。もちろん、そんなときでも原稿の締切は待ってくれない。迫る締切、日本で焦る編集者とマンガアシスタントたち。そんななかで手塚治虫がとった行動。それは、国際電話でマンガアシスタントたちに背景などの指示を送り、作品の進行を進めるというもの。電話口で、ひとつひとつのコマに的確に指示する手塚治虫。アメリカにまで膨大な資料を持っていっていたんだろうな、と思われた方は、認識が甘い。なんとこのとき、電話をする手塚治虫の前には、なんの資料もなかったのである。そう、彼は、自分の描いた原稿をすべて正確に暗記し、それを頼りに指示を出していたのだ。もうなんというか、すごいとかいう次元を超越している。しかし、その姿にマンガアシスタントたちは、感銘し、プロのすごさをまざまざと見せつけられ、憧れを抱き、同じフィールドに立つため、再び歩きだすのである。

 マンガアシスタントという職業には辛いこともたくさんある。しかし、技術力や精神など、得られるものも、また大きい。世のマンガアシスタントたちよ。どうか、その状況にめげずに、マンガ家先生からたくさんのものを吸収して、おもしろい作品を描いてほしい。それがマンガファンらの切なる願いである。