ジョニー・ライデンって何者? ガンダムの世界観を拡大したマンガが人気

マンガ

更新日:2013/4/4

 真紅の稲妻ジョニー・ライデン、白狼シン・マツナガ──。
 『機動戦士ガンダム』のファンで彼らの名前を当然のように知っているようなら、その人はなかなかの強者だろう。この2人は「ガンダム」シリーズの映像作品には登場していない。「MSV(モビルスーツバリエーション)」と呼ばれるガンダムのプラモデルにおける商品企画から生まれたジオン公国軍のエースパイロット達だ。

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 物語上は敵方であるジオン軍だが、不思議とファンの支持は熱い。それを証明するかのように、3月22日に発売された『機動戦士ガンダムMSV‐R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ』(虎哉孝征/角川書店)、26日に最新第6巻が発売となった『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』(Ark Performance:著、サンライズ:監修/角川書店)ともに人気を博している。

 『虹霓のシン・マツナガ』については単行本の第1巻が出たばかりで本格的なストーリー展開はこれからだが、今回6巻目となる『ジョニー・ライデンの帰還』は、定石とは少し異なるアプローチをしている。舞台はライデンが活躍したと言われている一年戦争末期からおよそ10年後の世界で、戦中の旧ジオン軍の兵器体系を調査するFSS(Federation Survey Service)という組織のメンバーが、ライデンの謎を追う形で話が進んでいく。

 過去にもライデンの自叙伝的ストーリーがコミカライズされたことはあったが、そのつもりでページを開くと「おっ!?」と意表をつかれることになるだろう。

 実を言うと、彼の設定については、プラモデル用という性格上、奥深いものがあまり存在していなかったようだ。当初から分かっていたのは、「金髪碧眼」、「キシリア・ザビ少将配下のエースパイロット部隊・キマイラに所属」、「ユーモラスな性格」、などといった断片的なものである。だが、唯一最大のキャッチフレーズともいえる「機体を赤く塗っていたため、ガンダム本編に登場する“赤い彗星のシャア”とよく間違えられた」というところがファンの心をつかんだのか、思いのほか人気が出てしまったようなのだ。

 『ジョニー・ライデンの帰還』では、そうした不明瞭な部分が多い状況を逆手にとり、読者に近い目線、すなわち「ジョニー・ライデンとは一体何者なのか?」という見方で描かれているのがおもしろい。

 実際、ストーリー内においても、ライデンはエースパイロットとしてその名が知られているだけにすぎず、彼の名前でWebで検索すると、ライデンとされる人物だけでも複数のまったく風貌の異なる写真がヒットするという有様である。なぜ、ライデンの情報は少なくて不明瞭であるのか? 所属していたエースパイロット部隊・キマイラが、あまり最前線に出てくることがなかったのはなぜか? そうした疑問の答えとなりうる情報が現れては、それにより新たな謎が生まれるという展開だ。

 物語の主人公は、前出のFSSに所属するパイロット、レッド・ウェイラインと、同じチームでジオン出身の女性エンジニアであるヒロインのリミア・グリンウッドの2人。彼らのチームが調査を進めていくにつれ、元キマイラ隊のメンバーと遭遇するようになり、調査が妨害され戦闘になるなど、背後に潜む陰謀とともに事件に巻き込まれていく。中には、周囲からジョニー・ライデンと呼ばれているパイロット、通称「ジョニ子」という少女まで登場してくるのだ! そして、彼らとの接触などで得られた情報により、実はレッドがジョニー・ライデンではないか? という疑いが少しずつかかっていくのである(現時点では本人は強く否定)。

 もちろん、メカニックに関する情報の紹介の仕方も秀逸だ。著者のArk Performanceによる丁寧な作画はもちろんのこと、登場する兵器の解説は、リミアが作成したと思われる報告書を読み上げるスタイルで十分なページが割かれており、軍用機としての特徴や、本筋の『機動戦士ガンダム』からの流れを踏まえた開発経緯などが丁寧に述べられている。また、今やお約束とも言える『機動戦士ガンダム』本編に出てきた人物がさりげなく登場しているのも、ありがたい限り。それが誰であるかは、読んでのお楽しみとしておこう。

 果たしてレッドの正体は、本当にジョニー・ライデンなのか? ミリタリー系のガンダムファンからは、彼のことを本格的に知ることができる唯一のコンテンツとして、かかる期待は大きいだろう。さらに、謎解きストーリーとしてガンダムに興味がなかった人が読んでも、読み始めたら惹き込まれる魅力を感じさせる。

 ガンダムシリーズは、『機動戦士Zガンダム』をはじめ、現在進行中の『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』(福井晴敏/角川書店)など、同一時間軸上の続編を縦軸とする一方、主人公たちが活躍するところとは別の戦地を舞台にした横軸の拡がりによっても、ファン層を拡大してきたと言われている。その一端を担う『ジョニー・ライデンの帰還』のストーリーの行方は、今後本格的に展開していくと思われる『虹霓のシン・マツナガ』と併せ、以後、要注目となりそうだ。

文=キビタキビオ