驚異的なDL数を誇った携帯エロマンガ『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』とは?

マンガ

更新日:2013/4/8

 2009年から小学館の携帯コミックサイト『モバMAN』で配信されていたマンガ『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』(本名ワコウ/小学館)が、2月末に発売された最新13巻をもって完結した。紙媒体の単行本としても書店で発売されているが、携帯コミックのトータルダウンロード数はなんと3600万を突破しているというから驚きだ。さらに、最終13巻では、本編42分のオリジナルアニメDVD付きの限定版も発売されている。

 物語は、地方から出てきた専門学校生の主人公・城戸龍彦が、引っ越したばかりのマンションの部屋の壁に、隣の部屋を覗ける程度の小さな穴があることを見つけたところから始まる。その穴を覗くと隣は女性で、向こうからも覗き込んできたために目と目が合ってしまった! そこで、龍彦は思い切って玄関から隣へ挨拶に出向くと、相手は同世代のやや小柄で前髪の揃ったカワイイ女の子であった。

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 そして、乗り込んだ際のちょっとした事故で、龍彦の弱みをやや強引に握ったその女の子は、それを帳消しにする代わりに「あたしと…自分見せ合いっこしませんか?」というブッ飛んだ提案をしてくるのである。その女の子の名前は、生野えみるといい、龍彦がこれから通う専門学校の同級生だった!

 以降は、月・水・金は龍彦、火・木・土はえみるが覗ける権利を持ち、日曜日はお休み。そして、割り振られた日以外は絶対に覗いてはならず、学校などの日常生活では関わりをもたない、という厳格なルールのもと、龍彦とえみるの奇妙な生活がスタートする……。

 という感じなのだが、そうは言っても基本的なスタイルは“エロマンガ”。物語はこの後、専門学校を主な舞台として龍彦がさまざまな女性と出会い、お約束のように何らかの濡れ場やそれに準ずるシーンに発展、ページの大半がそうした“行為”に割かれるのは同種のジャンルと大きな違いはない。

 だが、ちょっと違うのは、ヒロインであるはずのえみるが、部屋の穴からその一部始終を覗いていて、自らも興奮してひとり“行為”に走るということだ。このあたりの“エロネタ”に興味があるようなら、その欲情的なタッチと併せて、お手にとってご覧になることをオススメするが、それはまた別話としておこう。

 いずれにせよ序盤のえみるは、穴を覗いて得た情報を楽しむように利用して龍彦を手玉に取るシーンが多く、カワイイけれど何を考えているのかよくわからない小悪魔のような存在。積極的なアプローチで入学早々龍彦と付き合い始めることになる琴引友里をはじめ、専門学校の仲間たちには2人の“ルール”はもちろん内緒。しばらくして2人は同じ仲間内のグループとなってしまい、学校で行動を共にすることも多くなっていくが、それでも平然と振舞い続けるえみるに対して、龍彦は秘密がバレてしまわないか気が気でない。ましてや部屋にいるときは自分が覗かれていること、また覗くことができることを意識しまくる毎日だ。

 ただ龍彦自身は、当初は気弱な面を見せていたものの、もともと真っすぐな性格の持ち主で、いろいろな事件に巻き込まれながらもそれを乗り越え、人間的に成長していく。また、一方のえみるも物事を冷静に捉える目を持っており、この異常とも思える関係の中で龍彦を翻弄しつつ、時折思わせぶりな言動をちらつかせ、龍彦を惑わしてくる。いや、これには龍彦のみならず、おそらく読んでいる読者も一緒に惑わされるであろう。

 物語前半から中盤は、そうしたことの繰り返しにより、えみると龍彦の距離がときには離れ、また、ときには熱を帯びることもあったが、それはすべて“寸止め”に終わり、読者をさらにやきもきさせる。この時折思わせぶりなところを見せるところは、興味をつなぎとめておく「アメとムチ」と言っていいだろう。

 だが、後半になるに従って、前半の展開がさまざまな伏線となっていることが徐々に判明。完成間近のジグソーパズルのように、空いた部分に次々とピースが収まる勢いでクライマックスに突き進む。もちろん、その間も龍彦は異なるタイプの女性と何人も出会い、性行為に及ぶことも多々あるので、見た目は相変わらずエロマンガの体裁なのだが、気がつくと物語の方にもグイグイと吸い込まれていく。

 こんなことを言っては大変失礼ではあるが、エロマンガでこれほど丁寧に小事を積み上げていくストーリーも珍しい。万人ウケする可愛らしい絵のタッチと濃厚なエロ描写も秀逸な『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』だが、単にそれだけなら、多数のダウンロードにはつながらなかっただろう。

 エロゲやエロマンガには、時として素晴らしいストーリーの名作が生み出されるときがある──。

 誰が言ったか知らないが、そんな格言めいた言葉を聞いたことがある。だとすれば、『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』は、まさにその代表作と言えそうだ。

 「ただのエロシーンだけのマンガには興味ありません」

 そんなセリフが当たり前のように囁かれる日が、もうそこまで近づいてきているのかもしれない。

文=キビタキビオ