LINE初の連続小説が本屋大賞受賞なるか? 川村元気の仰天伝説

文芸・カルチャー

2013/4/8

 ついに明日、発表される2013年の本屋大賞。大本命といわれる百田尚樹の『海賊とよばれた男』(講談社)をはじめ、今年もバラエティ豊かな作品がノミネートされているが、なかでも注目を集めているのが、川村元気の『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス)だ。

 “LINE初の連続小説”として話題を呼び、新人の作品ながら25万部を突破している本作だが、注目された理由は著者自身にある。ご存じの人も多いだろうが、川村は日本を代表する映画プロデューサーであり、ヒットメーカーなのだ。

 これまでに手がけた作品を挙げれば、その実力は一目でわかる。弱冠26歳にして初プロデュースした『電車男』を皮切りに、松山ケンイチ主演で話題を呼んだ『デトロイト・メタル・シティ』、過激な描写で賛否を巻き起こした『告白』、深津絵里がモントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を獲得した『悪人』、そしてロングランとなった『モテキ』『宇宙兄弟』といったように、手がけた作品は次々と大ヒット。興行収入の面だけではなく、社会現象になるほどの作品となっているのも特筆すべき点だ。

 ヒットを生み出す理由は、川村の目利き力、そして度胸にある。たとえば、『悪人』で映画の脚本を担当したのは、原作者である吉田修一。本人たっての希望で脚本化したいと願い出たというが、小説家としては優秀でも、長編映画の脚本となれば話は別。『悪人 シナリオ版』(吉田修一、李相日/朝日新聞出版)の最後に収録された座談会でも、先輩プロデューサーが「正直ちょっと怖かったです」と打ち明けているが、川村は「実は僕は最初から吉田さんが書いたらいいのにな、と思ってたんです」と発言。先輩同様にビビってはいたが、「どうせ難しいんだったら、吉田さんと心中したほうがおもしろいかなと」と豪快な一面を見せている。

 また、吉田と監督の李相日、プロデューサー陣とで舞台となる長崎に出向いて具体的なイメージを固めるときも、川村はひとりだけ寝坊。「みなさんが漁村とかを見ている間、僕はやることがないんで、ちゃんぽんとか食べてました」と告白すると、李監督から「最低だね(笑)」と言われる始末。これも川村の大物っぷり(?)を象徴するエピソードだ。

 しかし、実際に脚本作業を進める段階では、「芥川賞作家を拘束し過ぎだって、出版業界の方から文句を言われてました(笑)」と川村本人が話すほど綿密に行われた。川村いわく、「僕が一番こだわりたかったのは原作の読み味」。「ひたすら原作にある感覚や肌ざわりを映像で具現化するという作業」に取り組んだ結果、世界をも感嘆させる映画をつくり出した。

 当然のことながら、製作者からの信頼も篤い。大ヒットを記録した『モテキ』では、映画製作の舞台裏を監督の大根仁が『モテ記~映画『モテキ』監督日記』(扶桑社)で明かしているのだが、ここにも川村が頻繁に登場。ドラマの第1話放送直後にさっそく「映画になりませんか?」と川村から打診があったらしく、その後も大根は「この男、とにかく仕事が早い」と絶賛。「メジャーに魂を売る気も作品をセルアウトする気もないが、この川村元気というプロデューサーとなら今まで行ったことがない、なんだか良い景色が見られるような気がする」と綴っている。

 初の小説となった『世界から猫が消えたなら』は、映像では表現しづらいことに挑戦したという川村。映画のように小説でも賞を受賞することができるのか。大いに楽しみだ。