チェコ・インド・ザンジバル…お国柄を反映する世界の名作怪談たち

海外

2013/4/13

 “怪談”というと、どんなものを思い浮かべるだろうか? 元禄時代に起きた実際の殺人事件に基づいた『四谷怪談』のような古来のものもあれば、15年ほど前に一躍ブームとなった「花子さん」をはじめ、学校にまつわる恐い話を集めた『学校の怪談』のように、都市伝説的なものもある。このように怪談は、いつの時代も人々の暮らしに寄り添うように存在し、江戸時代なら歌舞伎などで、現代なら映画やテレビドラマとして浸透していく。

 怪談が人気を集めるのは日本だけの現象ではない。世界の多くの国で、その国ならではの怪談が民衆の人気を集めている。例えば博物学者で妖怪評論家でもある荒俣宏の『ヨーロッパホラー&ファンタジーガイド―魔女と妖精の旅』(講談社)は、中欧に古くから伝わる怪奇物を多数収録した1冊。チェコの首都・プラハで、迫害されゲットーの中に閉じ込められたユダヤ人が身の安全を守るために作り出したといわれている泥の怪物「ゴーレム」の伝説をはじめ、実在した魔女狩りや古代信仰などを、荒俣が現地を訪れたエピソードを交えて紹介している。

 同じく中欧の怪奇現象を、対談形式で解析したのが『中欧怪奇紀行』(講談社)だ。SF作家の田中芳樹と作家&軍事史研究者の赤城殻というオカルト好きコンビにより縦横無尽に語られる“怪談雑学”は、単なる恐怖とは異なる土俵で濃密に展開される。「吸血鬼はロリコン」「狼男にはふたつの系統がある」等、知られざる怪談のウンチクは目からウロコの連続だ。

 また、世界に先がけて初の翻訳版となったインドの傑作怪談集『インドの驚異譚(全2巻)』(ブズルク・ブン・シャフリヤール/平凡社)には、人魚の住む島、お化け蟹、空飛ぶ大蛇、雌猿と交情した水夫など、常識を遥かに超えた強烈なストーリーが満載だ。これは、10世紀にインド洋を航海したムスリム航海者たちが蒐集した奇想天外な話を集めたもの。当時のイスラム海域交流の実態も垣間見える貴重な史料としても評価されている。

 そしてこの3月には、アフリカ東海岸はインド洋に浮かぶザンジバル諸島の怪談集が、写真評論家でありキノコ文学研究家でもある飯沢耕太郎により訳出された。その名も『ザンジバル・ゴースト・ストーリーズ』(祥伝社)。日々の暮らしの中に、呪術やゴースト伝承が今も“生きて”いるザンジバルの、呪術や精霊信仰に関する土着的な話を多数収録。また例えば、鉄の足かせをひきずって真夜中の路地を徘徊する鉄男「コマンジ」のように、過去に奴隷貿易の拠点であったこの国ならではの一面が見られる話も。面白いのは舞台がすべて現代のザンジバルというところだ。話そのものは昔の言い伝えがベースと思われるが、特定の市場や公園や映画館などの実在する場所がたびたび登場するため、各話には都市伝説のような生々しさが漂う。近代化と都市化が進む一方で、人びとの精神性は古来より変わっていない、というアンバランスさが手に取るように分かるのが、ザンジバル怪談の面白みのひとつともいえるだろう。

 怪談が国や人種を問わず親しまれているのは、好奇心を多分に含んだ「恐いもの見たさ」という心理が人類共通だからだろう。ゆえに怪談は「大衆娯楽」としての役割も果たしてきた。それは怪談の舞台の多くが一般市民の日常であることからもうかがえる。その意味で、怪談を楽しむことは、世界のさまざまな国の民俗や大衆史を知ることにもつながるのだ。

文=池尾 優