有川浩インタビュー「作家って、世界最小のメーカーだと思うんです」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 大泉洋が表紙を飾る『ダ・ヴィンチ』5月号で特集されているのは、映像化も相次ぎ今もっとも注目されている小説家・有川浩。故・児玉清も絶賛した彼女の神髄に迫るべく、同誌では6ページにわたるロングインタビューを掲載している。そこから一部を抜粋してご紹介しよう。

「たまたま作家になれたけれども、なれなかったら私はただの社会不適格者です(苦笑)。怠惰だし面倒くさがりだし、アルバイトや派遣で食いつないだ時期もありますが、ぜんぜん仕事もできなかったですし。たぶん、作家だけなんですよ。私が情熱を傾けられて、関わる人たちと一緒に、まがりなりにも利益を生み出せるようなお仕事というのは」

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 これまで本誌は、何度か有川さんにインタビューしてきた。初の巻頭大特集となる今回は、トリプル映像化達成のタイミング。このあたりで、自作の映像化について話を伺ってみよう。最初の映像化は、ノイタミナ枠で制作されたアニメ『図書館戦争』だ。続けて、初の実写映画化作品『阪急電車』、初の連続ドラマ化作品『フリーター、家を買う。』――。

「映像化では私、幸せな出会いばかりしてきている。原作を愛してくれて、確かな信頼を築ける、“この人たちとだったら心中できる!”と思う人たちとしか組んでいないんです」

「私は物語の可能性をもっと見たいんです!」と、有川さんは目を輝かせる。

「どんな作家さんもそうだと思うんですが、私は自分のどの物語も“小説として”一番面白く感じられるように書いたという自負があります。頭から順番に、機械的に映像に起こしていっても、絶対に小説を超えることはできない。それを“映像として”面白くなるよう、どんな技を見せてくださるかというところに、私はとても興味があるんです。それは私の糧にもなるし、勉強にもなるし、物語の可能性が開ける瞬間ですよね。ですから映像化の際は、“面白くなるんだったら何をやってくれてもかまいません!”とお伝えして、身を乗り出してくる人に預けたいなと常に思っています。『県庁おもてなし課』『図書館戦争』『空飛ぶ広報室』のスタッフのみなさんが、まさにそうだったんです」

 続く言葉が面白かった。「映像化は、私にとって事業拡大の一環なんです」。

「作家って、自分が資材ですよね。想像力という資金ゼロの資材を使って、物語という製品を開発する。そこで終わりにすることもできるけれども、その気になれば、パッケージのデザインや卸し先、宣伝の打ち方など、その後のすべての工程に立ち会えるんです。各出版社のみなさんと、プロジェクトごとにチームを組ませていただく形を取って。それって、他の職業ではなかなかありえないことですよね。そこが作家の楽しさだと、私は思っている。ある意味では作家自身が、世界最小のメーカーだと思うんです。

 つまり私の中には、作家・有川浩のほかに、社長・有川浩がいます(笑)。ですから映像化は、メーカー的にいうと、事業拡大。事業が拡大していく過程を観察するだけでも、社長としてはすごく楽しい。ちなみに、どう転ぶかわかんないなあと思いながら今やってみている事業が、演劇です。メーカーが実験プラントを立ち上げた、みたいな感覚ですね。プラスが出るかどうかまったくわからない、でも未来につながる何かがそこで開発されることになるかもしれないなっていう。……今話しながら思ったんですが、これ、作家のインタビューっぽくないですよね(笑)」

取材・文=吉田大助