ヒットマンガはこうして作られる! 知られざるマンガの舞台裏

マンガ

更新日:2013/4/19

 “重版出来”。これ、なんと読むか知っていますか? 実は、「じゅうはんでき」ではなく「じゅうはんしゅったい」と読むのだ。本に増刷がかかることを「重版」と言い、それが出来上がって書籍として販売されることを「重版出来」と言う。3月29日に発売された『重版出来!』(松田奈緒子/小学館)は、編集部や営業、書店員、作家のみんなが「重版出来」するために奮闘する姿を描いた作品になっている。主人公で元柔道部の黒沢心も、新人編集者としていろんな人と出会いながら成長していくのだが、まずはじめに本を売るために大切なことはなんだろう?

 それは、作家と編集部のやる気や信頼関係。どんなにマンガ家が頑張っていても、営業部からサイン会の話が来ているのに、作家の確認もとらず「単行本売るのはそっちの仕事でしょー!! サイン会なんてギャラも出ないし、なんでこっちがそこまで協力しなきゃなんないの?」と言い出す編集者では売れるものも売れない。逆に、どんなに編集者が頑張っても、ベテランマンガ家に「連載をやめる」と言われてしまうことも。「悪いがね、キミたちに相談しようなんてまったく思いもしなかったよ――」と言うマンガ家は、「編集者に頼って消えていった作家を山ほど見てるんだ」と言っていたが、担当作家のために会社をやめてフリーになった人もいる。編集者におんぶにだっこの頼り方ではいつか消えてしまうかもしれないが、お互いの信頼関係がなければ結局は長く続かない。まずは、1番最初に本を創り出す作家と編集部の力が必要だろう。

advertisement

 でも、それだけでは本は売れない。もうひとつ大切なのは、営業部のやる気と力だ。この作品の魅力は、なんと言っても普段なかなかスポットのあたらない営業や裏方の仕事について知れること。マンガや本を売るためには、営業部の力が大きな役割を果たしているのだ。「一冊でも多く刷って世に出したい」編集部と「無駄な赤字を少しでも増やしたくない」営業部の間では、常に戦いが繰り広げられている。しかし、営業部も本を売りたくないわけではないのだ。毎日書店をめぐり、ときには返品本を解体して手作りの試し読み冊子を800部作ったりもする。全国の店舗にそれを送って置いてもらうのだが、自分たちで行ける120店舗には、なんと手渡しで渡しに行くのだ。さらに、『タンポポ鉄道』という作品を売るためにはマンガコーナーだけでなく、その作品に関連した鉄道コーナーでも展開してもらえないか交渉してみる。自分の足では行けない地方の書店でも旅行や鉄道コーナーで展開してもらうため、なんと400通もの手紙を手書きで書いて送るのだ。こんな日々の積み重ねや地道な努力で本は売れていく。

 ただ、それだけでもまだ足りない。ここからは、実際に本を売ってくれる書店員の協力も必要になってくる。営業の積み重ねもあるが、そのやる気に応えてくれる書店員がいなければはじまらない。営業課長の岡が『タンポポ鉄道』の全国展開を仕掛けると言ったときも、「お世話になってる岡さんが仕掛けるとおっしゃるなら、こちらも全力でやらせていただきます」と、ポップや棚だけでなく、手作りの人形やボードにもこだわって特設のコーナーを徹夜で作ってくれた書店員たち。応援店やフェア展開していない書店でも、独自に棚を作ってくれていたりする。

 実は、本にはいろんなところで人々に愛されるだけでなく、愛してもらうための努力が積み重ねられているのだ。これを読めば、本は売れるんじゃなくていろんな人の手によって“売られた”ということに気づくはず。そんないろんな人の思いも感じながら、この本を手にとってみては?